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本学が保管するアイヌ遺骨に関する声明(2019年11月5日)
<はじめに>
今般、北海道大学は、本学で保管しておりますアイヌの方々の御遺骨を、白老郡白老町に整備される民族共生象徴空間(ウポポイ)の「慰霊施設」に集約することといたしました。平成26年6月13日の閣議決定において「象徴空間に遺骨等を集約し、アイヌの人々による尊厳ある慰霊の実現を図るとともに、アイヌの人々による受入体制が整うまでの間の適切な管理を行う」との、国の方針が示されております。この方針に大学として協力するものでございます。
本日は、本学で保管しております、アイヌの方々の御遺骨を慰霊施設に集約するにあたり、御遺骨の歴史的経緯に関する本学の見解と、今後の取組について述べたいと思います。
<これまでの経緯>
2005年、当時の中村睦男北海道大学総長は、「先住民族と大学」に関するシンポジウムにおいて、民族の尊厳を尊重しつつ、アイヌをはじめとする先住少数民族に関する全国的・国際的な研究教育を実施することが本学の責務であると宣言いたしました。
その背景には、北海道に立地する国立の総合大学としての役割だけでなく、これまでのアイヌ民族と本学との間の歴史的経緯がございます。
本学医学部においては、1931年から、人類学研究のため、アイヌの方々の御遺骨を発掘し、研究資料として保管・管理しておりました。
当時の医学部では、研究上もっとも重要と考えていた「頭骨」を「四肢骨等」と分離して保管する等、御遺骨を一体ごとに保管し、記録・管理する体制がとられておりませんでした。
このような取扱いは、アイヌ民族の尊厳に対する適切な配慮を欠いており、極めて遺憾であり、真摯に反省しております。
<これまでの本学の取組、判明した事実等>
本学では、現在の北海道アイヌ協会の前身であります、北海道ウタリ協会からの要望により、1984年に、医学部の敷地内に「アイヌ納骨堂」を建設いたしました。同年から毎年8月に、同協会主催のもと、慰霊行事である「イチャルパ」が実施されてきました。本年までに計36回開催され、本学もイチャルパの開催に協力してまいりました。
また、御遺骨の保管・管理がアイヌの方々の尊厳に対する適切な配慮を欠いたものであったという反省を踏まえ、医学部における御遺骨の収蔵経緯等を明らかにするための調査を行い、2013年には「北海道大学医学部人骨収蔵経緯に関する調査報告書」を作成し、公表いたしました。さらに、2018年には、寄贈資料により新たに判明した事実を取りまとめ、同報告書の追録を作成し、公表いたしました。これらの調査により、御遺骨の発掘及び保管状況の経緯の一部が明らかとなりました。現在は、御遺骨を用いて得られた研究成果について調査を行っており、調査が終了次第、報告書を作成し、公表する予定です。
2010年からは、御遺骨の尊厳ある保管を行うため、別々に保管されていた頭骨と四肢骨等を一体ごとに管理できるよう、残された記録や骨学的見地から、専門家による確認作業を進め、一体化することができた御遺骨を、一体ずつ桐箱に納骨いたしました。しかし、記録の不備や、元々の管理状況の問題から、すべての御遺骨について一体化を行うには至っておりません。
<御遺骨の返還について>
本学で保管・管理してまいりました御遺骨については、1985年に北海道ウタリ協会と協議を行い、御遺骨の返還を希望する協会の支部に対し返還することとしました。これを受けて、1985年から2001年にかけて、返還の要望があった、旭川、釧路、帯広、三石、門別の5つの協会支部に、計35体の御遺骨を返還いたしました。
2016年から2018年にかけては、裁判の和解にもとづき、杵臼、浦幌、紋別、旭川の各地域のアイヌの方々に、計85体と34箱の御遺骨をお引き渡しいたしました。
2017年からは、国が定めたガイドラインに基づき、身元が明らかな御遺骨を御遺族にお返しする取組を開始し、本年4月からは、身元がわからない御遺骨についても、該当する地域に返還を行う国の取組に全面的に協力しております。
これまで、本学は御遺骨の返還に関し独自の取組を行うとともに、御遺骨を保管する全国12大学の中でも率先して国の取組に協力してきました。御遺骨が民族共生象徴空間の慰霊施設に集約された後も、御遺骨返還に関する取組は継続されますので、引き続き、大学として責任をもって対応してまいります。
<今後の慰霊への取組、アイヌ納骨堂の在り方>
民族共生象徴空間の慰霊施設に御遺骨が集約された後も、地域返還の申請中等の理由により、引き続き本学のアイヌ納骨堂で保管する御遺骨がございます。これらの御遺骨の地域返還等が実現するまでの間、アイヌ納骨堂において慰霊行事を行ってまいります。
また、慰霊碑を建立し、御遺骨の集約・返還がすべて完了した後も、慰霊を行うとともに、後世に歴史的経緯を語り継いでまいります。
さらに、今後は、民族共生象徴空間の慰霊施設において行われる慰霊の取組に関しても、大学として協力してまいります。
このように、北海道大学は、過去の経験を深く心に刻むとともに、今後とも慰霊に努めていく所存でございます。
<教育研究機関としての責務>
本学では、2007年4月、アイヌ民族や各国の先住民族に関する研究を専門とする国内唯一の拠点である「アイヌ・先住民研究センター」を設置し、多様な文化の尊重と振興、実践的な文化伝承等に取り組んでまいりました。センターは設置から12年が経ちますが、その間、アイヌをはじめとする先住民族をテーマとした様々な研究プロジェクトを実施し、その成果を報告書や書籍として刊行してきております。また、市民講座を開講する等、センターの研究成果を広く社会の皆様に理解していただく取組も行っております。
本学入学者の7割近くは道外出身者です。道外出身の学生にとって、アイヌ民族の歴史や文化は必ずしも身近なものでないことを考慮し、1年次の学生向けに、アイヌ語やアイヌ文化を学ぶ講義を開講し、多くの学生に先住民族の歴史や文化を学ぶ機会を提供しております。
また、文系の学部・大学院を中心に、アイヌをはじめとする先住民族に関する専門的な教育を実施しております。
さらに、本年4月からは、大学院文学院に「アイヌ・先住民学講座」を設置し、アイヌをはじめとする先住民族に関連する体系的な教育を行うための体制を整えました。
以上述べましたように、本学では、1年次の基礎的教育から、学部移行後や大学院における専門的な教育研究に至るまで、アイヌをはじめとする先住民族に対する理解の向上、文化振興、文化伝承、民族共生に寄与する様々な教育研究活動を行っております。
今後とも、上記諸活動を継続するとともに、研修等を通じて、アイヌ民族に関する職員の理解を深めるための取組を行ってまいります。
結びに、北海道大学は、教育研究機関として、アイヌの方々が民族の誇りを持って生活することができ、かつ、その誇りが尊重される社会を実現するために何ができるかを考え、アイヌの方々に寄り添いながら、真摯に取り組んでいく所存でございます。