今内 覚准教授(大学院獣医学研究院)の研究成果「牛白血病の新たな制御方法、抗ウイルス効果の確認に成功-牛の難治性疾病に対する応用に期待-」が、農林水産省 農林水産技術会議の「2019年農業技術10大ニュース」の1つに選ばれました。農業技術10大ニュースとは、農林水産研究成果のうち、内容に優れるとともに社会的関心が高いと考えられる成果10課題を、農林水産省が発表したものです。
国内の牛は、その約35%が牛白血病に感染していると言われています*。この感染症に対するワクチンや有効な治療法はなく、発症すると死に至るため、多くの酪農従事者が深刻な経済被害に悩まされています。今内准教授は、牛白血病に対する新薬の開発に取り組んできました。これまでの研究成果として、病原体が免疫機能のはたらきを抑えるのを阻止する「免疫チェックポイント阻害薬」の開発が挙げられます。牛白血病ウイルスに感染した細胞は、免疫細胞(T細胞)の免疫機能を制御してしまうため、それを阻害する薬をつくり出したのです。今内准教授は、2017年に牛白血病への効能を実証し、現在は臨床研究を進めています。人用の免疫チェックポイント阻害薬は医薬品としてすでに実用化されており、2018年に本庶 佑教授(京都大学)がノーベル賞を受賞したことでも話題となりました。今内准教授が開発した動物の免疫チェックポイント阻害薬は、通常の牛白血病ウイルス感染牛には効果を発揮しますが、病態が進行して体内のウイルス量が非常に多い、「ハイリスク牛」と呼ばれる牛には効き目がないことが課題でした。
今内准教授は研究調査の中で、感染牛は共通して血液中の生理活性物質プロスタグランジンE₂(PGE2 )という物質が上昇していることに気がつきました。なかでも、ウイルス量が多いハイリスク牛ほどPGE₂が上昇していました。そこで着目したのが、家畜用の鎮痛解熱剤として市販されている「COX-2阻害剤」という薬剤でした。COX-2阻害剤には、PGE₂の生産を抑える働きがあります。今内准教授は、COX-2阻害剤を免疫チェックポイント阻害薬と合わせてハイリスク牛に投与しました。その結果、免疫機能の向上によりウイルスを減少させることに成功しました。COX-2阻害剤に免疫機能向上の効能があることを初めて報告し、2つの薬剤を併用することで牛白血病の感染源となるハイリスク牛への治療法を編み出したのです。実際に何割の牛に効果があるのか、引き続き検証していく予定です。
「牛白血病による被害を食い止めるためにも、新たな制御法の開発が急務です。家畜の創薬は食品となる家畜を対象とするため、実用化に至るまでのハードルが高く、社会実装にはまだかかりそうです。しかし、北海道大学としては諦めず生産者様の生産性向上の願いに資する創薬研究を遂行していきたいと思っています。今回の選出が、多くの人に家畜の病気や治療法に関心を持ってもらうきっかけになれば幸いです」と、今内准教授は語ります。
(総務企画部広報課 学術国際広報担当 菊池優)
*...2009年から2011年の検体を用いて行われた動物衛生研究所の大規模調査(20,835頭)より(Murakami et al., 2013)
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