フッ素燐灰石巨晶 スリランカ産
炭酸燐灰石(青色) 東南極スカレビックハルゼン産
燐灰石結晶 メキシコ産
燐灰石結晶 スリランカ産
燐灰石キャッツアイ スリランカ産
燐灰石(apatiteアパタイト)は、一般化学式Ca5(PO4,CO3)3(F, OH, Cl)を有する六方晶系の燐灰石族鉱物の総称である。含まれる成分により、フッ素燐灰石、水酸燐灰石、塩素燐灰石などの独立鉱物種に区分され、炭酸を含むものは炭酸燐灰石と称する。天然では少量であるがごく普通に産し、中でもフッ素燐灰石が最も多く、火成岩(ペグマタイトやカーボナタイトも含む)・堆積岩(鳥の糞グアノ等)・変成岩・スカルンや熱水性鉱床など産出状態(産状)は様々である。結晶は透明~半透明の六角柱(錐)状や六角板状を示すが、塊状や土状、粒状のものもある。紫外線により、美しいピンクや黄色の蛍光(ルミネッセンス)を発する。
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本来、燐灰石は無色ないし白色のガラス~亜樹脂光沢の鉱物であるが、微量のMn(マンガン)などの含有により黄色、ピンク、緑色、青色、紫色、褐色など多彩な色彩を示す。硬度が低い(モース硬度5)ことなどから宝石品質の燐灰石は極めて少ないが、変種の帯黄緑色のアスパラガス・ストーン、緑色のモロキサイトは評判が高い。繊維状集合体の燐灰石を丸くカボッションカットしたものは、キャッツアイの様な特殊な光彩効果を示す。
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英名のapatiteは、ギリシャ語の「人を欺く」を意味するapateに語源をもつ。これは、石英、トルマリン、アメジスト、アクアマリン、サファイアなど様々な鉱物と酷似する外形・色や産状を示すため、しばしばそれらと誤認されたことに由来する。筆者も南極における地質調査の折、青色燐灰石を青色サファイアと誤認した苦い経験がある。和名は、Ca(カルシウム)とP(リン)を主成分とする鉱物であることから燐灰石の名前があてられている。
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燐灰石は燐の主要資源鉱物で、一般的用途として窒素・カリウムと並び農業用化学肥料に広く利用されるほか、洗剤や試薬等の燐酸の製造原料にもなっている。錬金術が最盛期を迎えた17世紀後半に、燐灰石から取り出された燐元素は、その後19世紀になりマッチの原料や農業用燐酸肥料として利用された。特に、土壌肥沃化により食料増産をもたらしたこの画期的な化学製品は、産業革命以降の急激な人口増加を支えることとなった。
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水酸燐灰石(ハイドロキシ・アパタイト)は、人間や動物の歯・骨の主要構成物質(生体鉱物)で、人工の水酸燐灰石は歯科医療(インプラント、入れ歯)や外科医療(人工骨)などにも広く利用されている。 燐灰石の主な産地として、アメリカ、メキシコ、ブラジル、スペイン、ロシア、スリランカ、インド、マダガスカル、中国などが知られている。
(総合博物館 まつえだ ひろはる)