<写真>時計台サロンが行われている時計台ホール
4月18日(木)、札幌市時計台(正式名:旧札幌農学校演武場、中央区北1西2)2階 時計台ホールにて、第68回時計台サロン「農学部に聞いてみよう」が開催され、市民など52名が参加しました。今回のテーマは「最新やさい図鑑」。農学研究院 教授の久保友彦さんが「ビーツの歴史」、タキイ種苗株式会社 長沼研究農場 野菜グループ チーフ 鈴木良平さんが「野菜品種ができるまで」と題して講演しました。
時計台サロンは「農と食」について広く市民の方々と学ぶ公開講座として、北海道大学農学部と、北海道新聞編集局の連携協力協定のもと、2012年4月にスタートしました。会場は、国内外から多くの観光客が訪れることで有名な札幌市時計台。1878年に北海道大学の前身である札幌農学校の演武場として建設されました。趣のある時計台ホールは、かつて兵式訓練や式典が行われていた明治時代の講堂の様子がそのまま再現されているそうです。
68回目となる今回のテーマは「最新やさい図鑑」で、2人の講師が話題提供しました。
講義1:ビーツの歴史
講義1では、農学研究院 教授の久保友彦さんが「ビーツの歴史」と題して講演しました。遺伝育種(遺伝情報に基づく品種改良)を専門としている久保さんは、近年健康効果などから注目されつつある根菜「ビーツ」の来歴などについて紹介しました。 久保さんは、品種改良を行う上で、その作物がどこで誕生し、どんな歴史をたどって来たのかは、とても重要な情報だと話します。最新の研究では、ビーツは地中海の東側が発祥地だと考えられていること、ビーツの祖先はいまとは全く違う形状だったことなどを紹介しました。また古い書物を紐解くと、江戸時代の日本にもビーツがあったことが分かったそうです。 誰かがビーツが好きだと聞くと、つい嬉しくなってしまうという久保さん。「この講義でビーツに興味を持った方は、機会があれば是非食べてみて欲しい」と締めくくりました。
講義2:野菜品種ができるまで
講義2では、タキイ種苗株式会社 長沼研究農場 野菜グループ チーフの鈴木良平さんが、「野菜品種ができるまで」と題して講演しました。鈴木さんは、品種(タネ)を研究開発・生産・販売する種苗メーカーで、ブリーダー(育種家)と呼ばれる研究者として、日々新たな品種の開発に取り組んでいます。 講演では、甘く完熟した状態での出荷が実現したトマトや、栄養価が高く色鮮やかなタマネギなど、作り手、売り手、買い手それぞれのニーズを汲み取って実現した品種開発の実例を紹介しました。通常、品種改良によって新たな品種を生み出すには10年~15年かかるといいます。近年では、ニーズの変化のスピードにも対応するため、遺伝子情報を用いて効率化を図り、これまで5年~10年かかっていた新しい系統の育成がわずか3年になった例もあるそうです。 鈴木さんは研究農場で毎年、数千系統を育成し、その中から良い品種を選抜するブリーダーの仕事は、地道な作業も多いと話します。最後に「皆さんが食べるひとつひとつの野菜にも、ブリーダーたちの10年におよぶ苦労が詰まっていることを少しでも知っていただけたら」と来場者に語りかけました。
講義後の質疑応答タイムでは、多くの手が挙がり、参加者たちが次々とビーツや野菜の品種改良について講師の2人に質問していました。
講師を務めた鈴木さんは、「最初は緊張していましたが、久保先生の講演を聞いて、海外出張で訪れたブラジルでよくビーツを食べていたことなどを思い出し、落ち着いて説明することができました。質問してくださった方々が野菜に強い関心を持っていることが分かり、これからも仕事をしっかり突き詰めてやらなければならないと改めて実感しました」と話しました。
また、農学部の広報委員も務める久保さんは、「時計台サロンは、農学研究院にとって大事なアウトリーチ活動のひとつです。今回も多くの方々にお越しいただき、質疑応答も活発で良かったです。本日もいらっしゃいましたが、北海道で講演すると農家の方が参加してくださることが多いです。直接農家の方の声を聞く機会は、農学研究者にとってとても重要で、大変勉強になります」と語りました。
時計台サロンは、2か月に1度のペースで開催されています。重要文化財 札幌市時計台の中で札幌農学校時代に思いを馳せながら、「食と農」を学んでみませんか。
【文・写真:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 川本 真奈美】