2020年春の褒章において、理学研究院の圦本尚義(ゆりもと ひさよし)教授が紫綬褒章を受章することになりました。紫綬褒章は、科学技術分野の発見や発明、学術及びスポーツ・芸術分野における優れた実績を挙げた人に国から贈られるものです。

圦本教授は長年にわたり地球惑星科学の教育・研究に務め、同位体顕微鏡を世界ではじめて開発する等、国際的に活躍しています。同位体顕微鏡は隕石等に含まれる同位体の微小な分布を画像化する装置です。これにより、宇宙の新物質が次々と発見され、圦本教授の「太陽系の起源」に関する研究は大きく進展してきました。
2011年には、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」のサンプルを分析した結果を米科学誌Scienceに発表しました。現在は、今年の12月に帰還予定の「はやぶさ2」が持ち帰る「リュウグウ」のサンプル分析の準備を進めています。
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圦本教授に受章の喜びなどを伺いました。※インタビューはオンラインで行いました
■圦本教授インタビュー
― このたびは、紫綬褒章の受章おめでとうございます。まずは、今の率直なお気持ちをお聞かせください
突然のことで、とても驚きました。身に余る光栄です。私の業績は、学生や、様々な分野の研究者、事務や研究支援職の方々、家族など、数えきれない人々との出会いと協力で、もたらされたものです。これまで支えてくださった全ての皆さんに、感謝の気持ちでいっぱいです。

― 研究のアイディアはどこから生まれるのでしょうか
自然に生まれてきます。これまで、疑問に感じたこと、知りたいと思ったことについて、どうしたら謎が解明できるのかを、ただ追求してきただけです。研究によって謎が解明されると、また新たな疑問が湧いてくる。その繰り返しです。
― これまでの研究生活でご苦労があったこと、嬉しかったことをお聞かせください
幸いなことに、苦労だと感じたことはあまりないですね。研究室の学生やスタッフにも恵まれて、やりたいことを好きなようにやってきたと思っています。逆に嬉しかったことは沢山ありました。学生が新しいことを発見し、実験成果を持って来てくれたことです。それから、2005年に北海道大学にやって来たことも嬉しかったことの一つです。
―北海道大学に、移ってみていかがでしたか?
北海道大学に足を踏み入れると、伝統と懐の深さを感じました。良い意味でのんびりしていて、自由に研究できる雰囲気があります。キャンパスが広大で、実験室も広く、多くの研究者が同位体顕微鏡システムを使いに来てくれます。総合大学の強みをいかし、柱である惑星科学の研究だけではなく、以前は交流できていなかった様々な分野の先生方と知り合うことを楽しんでいます。その結果、農学、医学、水産学など多く分野の共同研究、論文発表に発展しています。

― 若手研究者や、研究者を志す皆さんへのメッセージをお願い致します
若い研究者の皆さんには、自分が研究したいと思う対象の中で疑問を見つけて、それを解き明かすことに正面から取り組んで欲しいと願っています。これから研究者を目指す方々には、まずは自分の興味を広くじっくりと見つめて、具体的な疑問を探して欲しいです。
― 最後に、先生ご自身の今後の展望についてお聞かせください
これまで自由気ままにやってきて、こうした素晴らしい褒章をいただくことが出来たので、定年までもう少し気ままにやらせてもらっても良いのかな、と思っています。いま疑問に思っているのは、生物学者がどのような考え方で、生体機能を解明しているのか。その発想のプロセスを知りたいです。面白い生物学者の方と出会って、共同研究してみたいですね。
また、今年の12月には「はやぶさ2」が小惑星リュウグウのサンプルを持って帰還します。もしかしたら、これまで人類が見たこともない新たな物質が発見されるかもしれません。コロナウイルスに負けず、世界中の研究者たちが準備を進めていますので、皆さん楽しみに待っていてください。

圦本教授、北海道大学にとびきり明るい話題を提供してくださり、ありがとうございました。後編では、圦本教授の研究内容等についてお伝えします。
(総務企画部 広報課 学術国際広報担当 川本 真奈美)
■圦本教授のプロフィール
1958年3月12日 和歌山県生まれ(62歳)。1985年 筑波大学大学院地球科学研究科博士課程修了後、日本学術振興会奨励研究員、筑波大学助手・講師、東京工業大学助教授を経て、2005年から現職(2016年から2020年2月までクロスアポイントメント制度でJAXA教授を兼務)。2006年 日本鉱物科学会賞と日本地球化学会賞、2019年 国際隕石学会 レオナード・メダル (Leonard Medal, Meteoritical Society) など受賞多数。市民向け講演会や高校等への出張講義など、アウトリーチ活動にも精力的に取り組んでいる。