【報道関係者向け説明会を実施】淡路島の恐竜化石を新属新種「ヤマトサウルス・イザナギイ」と命名(総合博物館 小林快次教授インタビュー)

北海道大学総合博物館 小林快次(こばやし よしつぐ) 教授らの研究グループは、2004年に兵庫県淡路島の白亜紀後期(約7,200万年前)の地層から発見された恐竜化石が新属新種であることを明らかとし、「ヤマトサウルス・イザナギイ(伊弉諾(イザナギ)の倭竜(やまとりゅう)の意)」と命名したことを発表しました。日本で見つかった恐竜が命名されたのは9例目です。

本研究成果は、2021427日(火)オンライン公開のScientific Reports誌(Nature Publishing Group)に掲載されました。

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ヤマトサウルスの歩行アニメーション© Masato Hattori

4月27日(火)、北海道大学総合博物館にて報道関係者向け説明会が開かれ、恐竜化石のレプリカなどをもとに小林教授が研究成果について解説しました。

固有の特徴がみられるヤマトサウルスの歯について解説する北海道大学総合博物館 小林快次 教授 固有の特徴がみられるヤマトサウルスの歯について解説する北海道大学総合博物館 小林快次 教授

歯に固有な特徴を持つことなどから、新属・新種であることが明らかに

淡路島で発見されたヤマトサウルスは、北海道むかわ町で発見され2019年に新属新種であることが判明したカムイサウルス(通称:むかわ竜)と同じく、白亜紀後期の海の地層から発見されました。ともにハドロサウルス科の恐竜であり、体長およそ7~8メートル、重さは4~5トンと推定されています。

ヤマトサウルスの発見された部位(ヤマトサウルスのシルエット<span>©️</span>増川玄哉) ヤマトサウルスの発見された部位(ヤマトサウルスのシルエット©️増川玄哉)

淡路島で発見された恐竜は、下顎中央部の歯列の機能歯(食べ物を咀嚼するために使われる歯)が1本しか無いこと、歯の咬合面(食べ物を擦り潰すところ)に分岐稜線という溝のような構造が無いことなど、他のハドロサウルス科にはみられない固有の特徴を持つことから、新属新種の恐竜であることが明らかとなりました。

歯の特徴を示した図。ヤマトサウルスのシルエット(左上)(<span>©️</span>増川玄哉)と発見された歯骨(左下)。右下の他のハドロサウルス科(コリトサウルス)の歯と比べると、機能歯が<span>1</span>本しか無いこと(アスタリスク)、分岐稜線(放射状に入っている溝のような構造)が無く凹凸が少ないことが分かる 歯の特徴を示した図。右下の他のハドロサウルス科(コリトサウルス)の歯と比べると、機能歯が1本しか無いこと(アスタリスク)、分岐稜線(放射状に入っている溝のような構造、矢印)が無く凹凸が少ないことが分かる(ヤマトサウルスのシルエット(左上)©️増川玄哉)

ハドロサウルス科のなかでも原始的な恐竜であることが判明

2005年に学会発表された先行研究では、ハドロサウルス科の中でも派生したランベオサウルス亜科と同定されていました。しかし、本研究で354個の特徴を70種の他のハドロサウルス科の恐竜と比較する系統解析を行った結果、ヤマトサウルスはハドロサウルス科のなかでもより原始的な恐竜であることが判明しました。派生的なハドロサウルス科(カムイサウルスやニッポノサウルスなど)との最大の違いは烏口骨(肩の骨の一部)が未発達であることです。

ヤマトサウルスの肩の骨(左)と、系統関係の概略図(右) ヤマトサウルスの肩の骨(左)と、系統関係の概略図(右)

小林教授は、「近年は個々の情報だけではなく、世界中の恐竜研究者が公開しているデータを活用して解析できるようになってきました。また、こうしたビッグデータを扱うための解析手法も増えてきて、より深い研究が可能となっています。そして何より、今回このタイミングでこうした研究成果を発表できたのは、北海道大学を起点として恐竜研究のネットワークが出来ているからです。共著者の一人、岡山理科大学 高崎竜司研究員も私の研究室出身です」と、今回の成果の背景について話しました。

学名の意味

学名「ヤマトサウルス・イザナギイ(Yamatosaurus izanagii )」の「ヤマト」は古代の日本を意味し、「イザナギイ」は、イザナギノミコトなどの登場する国生み神話が伝わる淡路島で発見されたことと、ハドロサウルスの起源において重要であることにちなんで命名されました。

共著者の一人は本学の卒業生

本論文の著者の一人で、本学の卒業生(小林研究室出身)である岡山理科大学の高崎竜司研究員はハドロサウルスの専門家。学生時代には、北海道帝国大学(現在の北海道大学)の長尾巧教授によって1936年に日本ではじめて命名された恐竜、ニッポノサウルスの研究にも携わりました。

高崎さんは、「このたびは貴重な化石の研究に関わらせていただき、光栄です。ヤマトサウルスはハドロサウルス科の起源を解き明かす為に重要な化石で、今回の研究を発端に、今後も多くの新しい知見が得られると思います。また本研究で、前脚の進化がハドロサウルス科の大繁栄に大きく影響した可能性も浮上しました。今後、この点をより深く掘り下げていきたいです。いま私が所属している岡山理科大学はモンゴルの恐竜研究が盛んですので、モンゴルの恐竜と合わせて、ハドロサウルス科の初期進化過程をさらに解き明かしていきたいです」とコメントを寄せました。

また、「小林教授は厳しく、同時にとても面倒見の良い師匠です。研究の細かな手法はもちろんですが、何よりも研究への向き合い方を学ばせていただきました」と北海道大学時代を振り返りました。

北海道大学総合博物館 小林快次教授(左)と岡山理科大学 高崎竜司研究員。4月26日に岡山理科大学で開催された報道関係者向け説明会にて 北海道大学総合博物館 小林快次教授(左)と岡山理科大学 高崎竜司研究員。426日に岡山理科大学で開催された報道関係者向け説明会にて(写真提供:岡山理科大学)

カムイサウルスとの比較研究にも期待が高まる

小林教授は、「今回の研究でヤマトサウルスが非常に原始的なハドロサウルス科の恐竜であることが分かってきました。ハドロサウルス科の起源や進化、どのように移動して生息域を広げていったのかを探る鍵となる世界的にみても重要な化石であるといえます。また、ヤマトサウルスは、現在私たちの研究室で研究中のカムイサウルスと同じ時代に、同じ海岸線の環境で暮らしていた恐竜ですが、進化的にみると大きく異なっています。これらの恐竜のどこが違うのか、なぜ違うのかを比較研究することは、大変大きな相乗効果があると考えています。これからも北海道大学からカムイサウルスとヤマトサウルス、そしてさらなる恐竜研究の成果を発信していきますので、ご期待ください」と今後の抱負について語りました。

【学名発表】淡路島の恐竜化石を新属新種「ヤマトサウルス・イザナギイ」と命名(総合博物館 小林快次教授インタビュー)

北海道大学総合博物館でヤマトサウルスを展示

4月28日(水)~74日(日)まで北海道大学総合博物館にて、ヤマトサウルスの化石標本(レプリカ)が展示されます。現在、ヤマトサウルスの展示がみられるのは、世界でここだけ。ぜひこの機会にご覧ください。

【創成研究機構(広報課 学術国際広報担当)川本 真奈美】

淡路島から発見されたヤマトサウルス(左)と同時代の北海道に生息していたカムイサウルス(右)の復元画。<span>©️</span>服部雅人 淡路島から発見されたヤマトサウルス(左)と同時代の北海道に生息していたカムイサウルス(右)の復元画。©️服部雅人