炭素結合の謎を解き明かす

理学研究院 准教授 石垣侑祐

理学研究院 准教授 石垣侑祐さんの研究グループは、世界一長い結合長を持つ炭素-炭素単結合の創出に成功しました。伸長された結合は、今まで誰も見たことのない新しい特性を持っていました。


「炭素結合の謎を解き明かす(理学研究院 石垣侑祐准教授)」

炭素は自然界のあらゆる場所に存在します。例えば、私たちの体を構成するタンパク質や脂質は、炭素や水素、酸素といった原子が結合することでつくられています。石垣さんが注目したのは、炭素と炭素の「単結合」。炭素-炭素単結合は、炭素同士のもっとも一般的な結合の仕方で、互いに電子を1つずつ出し合い、それらを共有することで結合を形成し、物質をつくります。

炭素-炭素単結合の炭素間の長さ(結合長)は、ほぼすべての物質で、1.54 オングストローム(オングストロームは100億分の1メートル)という値をとります。剛直で伸縮性のない炭素-炭素単結合は、基本的にこの決まった値を示すため、有機化学の世界では「ものさし」と称されていました。石垣さんは、炭素-炭素単結合の結合長を伸ばすことは本当に不可能なのか、もし結合長を伸ばすことができれば、なにか新しい現象を確認できるのではないかと興味を持ち、世界一長い炭素-炭素単結合の創出に挑もうと決意しました。

理学研究院 准教授 石垣侑祐さん理学研究院 准教授 石垣侑祐さん

研究を進めていくなかで、炭素同士の結合を伸長させると、結合する力が弱まり、非常に不安定な物質になってしまうという課題が出てきました。そこで、石垣さんたちは、弱い結合部分を剛直な骨格で保護するという独自の分子設計戦略「分子内コア―シェル構造」を編み出しました。これにより見事、炭素同士の結合長が引き伸ばされたうえで安定した物質をつくることに成功しました。その結合長は、1.806オングストローム。標準値より17%も上回り、世界記録を更新したのです。

世界最長の炭素-炭素単結合を含む化合物世界最長の炭素-炭素単結合を含む化合物

さらに研究を進めた結果、伸長された炭素-炭素単結合は結合エネルギーが弱いため、柔軟性に優れていることがわかりました。伸長された結合は、光や熱に応答して、伸びたり縮んだりします。これは標準の結合長では見られなかった特性で、新たな材料開発への応用が期待できます。石垣さんは、「今後は2オングストロームという値を超えることを目標に、研究を続けて行きたいと思っています。長い結合をさらに伸ばしていくことによって、また新しい現象を引き起こすことができると考えているからです」と語りました。

この記事の原文は英文です
再編:総務企画部広報課 学術国際広報担当 菊池 優