ノーベル化学賞受賞のベンジャミン・リスト特任教授が特別講演。次世代有機触媒の共同研究プロジェクト「Listプラットフォーム」もスタート

<写真>講演するベンジャミン・リスト特任教授/ユニバーシティプロフェッサー

2021年にノーベル化学賞を受賞した化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD、以下ICReDD)特任教授で北海道大学ユニバーシティプロフェッサーのベンジャミン・リストさん(マックス・プランク石炭研究所長)が、10月11日(水)に開催された「第9回北大部局横断シンポジウム」で特別講演を行いました。

リストさんは、2018年からICReDDの主任研究者、2020年からは特任教授を務めています。「不斉有機触媒」の研究でデイビッド・マクミラン博士(米プリンストン大学)と共に2021年ノーベル化学賞を受賞。その功績が認められ、昨年、本学からユニバーシティプロフェッサーの称号が授与されました。11日の特別講演は、医学部学友会館フラテとオンラインで同時開催され、会場には学内外の学生や教員など約200人が、オンラインでは約500人が参加しました。リストさんは自身の生い立ちや、化学反応を促進する触媒研究の魅力について語りました。

講演会場の様子。会場では約200人の参加者がリスト特任教授の講演に聴き入った講演会場の様子。会場では約200人の参加者がリスト特任教授の講演に聴き入った

リストさんは、2010年にノーベル化学賞を受賞した鈴木章さん(北海道大学ユニバーシティプロフェッサー、名誉教授)も触媒の研究が受賞理由になったことに触れ、「鈴木先生の受賞に至るまで、化学触媒の分野で17のノーベル賞が授与されましたが、それらはすべて金属を含む触媒でした」と話し、触媒研究が私たちの生活にも大いに役立っている一方で、これまでの触媒は高価で環境負荷が大きい金属を含むものが一般的だったと説明しました。リストさんは、「私が学生の頃は、金属を使って触媒を作ることがルールのようになっていました」と語り、ルールにとらわれずに研究をした結果、安価で環境に優しい「有機触媒」にたどり着いたことを明かしました。「私の夢は、私たちが夢見るあらゆる種類の反応を促進する普遍的な触媒を作り出すことです」と語り、今も新たな触媒を生み出す研究を続けています。

会場やオンライン視聴者の質問に答えるリスト特任教授(左端)と、司会の寳金清博北海道大学総長(右端)会場やオンライン視聴者の質問に答えるリスト特任教授(左端)と、司会の寳金清博北海道大学総長(右端)

講演後は、会場やオンライン視聴者との質疑応答がありました。若い研究者へのメッセージを求められたリストさんは、「熱意がキーワード。一生懸命さは必要だけど、自分のやりたいことに取り組むなら苦しいとは思わないでしょう。自分の熱意に従えば、幸せな人生が送れます」とエールを送りました。また、日本とドイツの研究環境について問われたリストさんは「政府が助成金を出すので、研究に短期的な成果を求める国もあるが、それは問題だと思う。基礎研究は20年、30年と時間が必要で、長期的な支援があるからこそ、挑戦的な課題にも取り組める」と指摘し、「日本やドイツのような教養のある社会が、長期的な視野に立って研究支援をすることはとても有益なことだ」と話しました。

講演会の司会を務めた寳金清博北海道大学総長からは「ICReDDでの共同研究の今後の展望は」という質問がありました。リストさんは「私の究極の計画は、自分自身が役に立たなくなることです。つまり、計算化学や機械学習のプログラムが新たな触媒や薬の分子を設計してくれたら、化学者は必要なくなります。数十年かかると思いますが、素晴らしい研究課題だと思います。それができたら、私は引退して、おいしい食べ物を食べて世界を旅します。それが私の目標です」と答え、会場を沸かせました。

講演後、参加者と記念撮影をするリスト特任教授と寳金総長講演後、参加者と記念撮影をするリスト特任教授と寳金総長

なお、リストさんが特任教授を務めるICReDDは今年4月、環境に配慮した次世代有機触媒の共同研究プロジェクト「Listプラットフォーム」を設立しました。リストさんを中心として、計算化学や人工知能などの多分野の技術を融合し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)や環境負荷に配慮した次世代有機触媒の開発を推進する研究プロジェクトで、そのキックオフシンポジウムも10月5日(木)、ICReDDで開催されました。

【文・写真:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 齋藤有香】

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化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)ウェブサイト