【Academic Fantasista 2023】札幌南高校にて7名の研究者が講義を実施

10月20日(金)札幌南高校にて、7名の研究者が講義を行いました。

「世界を変えるAI研究の最前線」情報科学研究院/データ駆動型融合研究創発拠点 教授 長谷山美紀

長谷山さんは、ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な発展により、新たな職業が生まれ、社会が変わろうとしていると語ります。生成AIの事例として、文字入力で画像を生成するモデルをいくつか紹介し、コンボリューショナルニューラルネットワーク(CNN)や、Transformerなどの画像認識に用いられる深層学習の仕組みや特徴を分かりやすく解説しました。さらに、これらの技術に基づき、長谷山研究室で行われている医療、宇宙、土木、脳科学など様々な分野で役立つ最先端AI研究の数々を紹介しました。講義を終えて生徒たちからは「人工知能の歴史や現代社会での実用性、研究室での研究の結果などを、図表や資料を使い様々な話題を織り交ぜて話していただき、とても面白かった」「AIとどのように共存していくのか、どのような社会を目指していくべきなのかについて、しっかりと考えたいと思う」などの感想が聞かれ、AIの可能性や共存について深く考える時間となった様子でした。

最先端AI研究について紹介する長谷山教授 最先端AI研究について紹介する長谷山教授

「『生きる』、『生活』を支援する看護ケアとその効果」

保健科学研究院/データ駆動型融合研究創発拠点 教授 矢野理香

看護師としての経験から、矢野さんは、看護師の健康管理のためのICT技術や、最適な仮眠環境システムの開発など、看護師の働く環境を改善するための研究をしています。また、脳卒中患者への湯に手を浸す「手浴」の効果など、経験的に効果があるとされているケア内容の有効性を科学的に実証することに挑戦しています。効果的なケアの手法を普及させることにより看護の質の格差をなくしたいと話し、誰もがより安全で質の高い心地よいケアを受けられるように支援していくことは、超高齢社会が進む現代でますます重要になると解説しました。生徒からは「看護師の仕事は、注射や採血などの医療行為という認識だったが、患者の心と身体をケアする役割もあるということがわかった」「リハビリの効果を科学的な検証によって確立させるなど、患者のための研究が看護学科でもできると初めて知った」など、これまで知らなかった看護について関心を高めた様子でした。

「手浴」の効果について解説する矢野教授 「手浴」の効果について解説する矢野教授

「光を使ってがんを治す」薬学研究院/データ駆動型融合研究創発拠点 教授 小川 美香子

複数あるがん治療のなかでも、がんに厳しく人にやさしい治療として、小川さんは光を使って治療をおこなう「光免疫療法」を紹介。もともと光でがんを見つける研究をおこなっていた小川さんは、その研究過程でがんの治療薬を発見しました。講義では、光を当てることでがん細胞を破壊する薬の構造を解説するとともに、創薬研究の流れとそこに伴う苦難にも触れました。また、この薬を使うことで免疫が活性化することもわかっていると説明し、転移によって散らばったがんを治せる可能性があるとの考えを伝えました。講義を受けた生徒からは「偶然の発見から研究が始まったことを知り、挑戦することが大事だと思った」「大学での学びについて知ることができ、とても良い経験になった。自らの進路を考え直すきっかけになった」など、研究や大学への興味が深まる時間となりました。

光の透過について説明する小川教授 光の透過について説明する小川教授

「材料の表面を変えて、世界を変える」工学研究院 准教授(現教授) 菊地竜也

菊地さんは、私たちの身の回りに溢れている「材料」は、周期表に記載された元素の組み合わせからできていて、電気化学の力を用いることで、材料表面のナノ構造を高度に制御して革新的な特性を生み出すことができると解説しました。例えば、アルミニウムの表面をナノレベルで創り変えることによって腐食しづらい材料ができることや、水をよく弾く超撥水性のアルミニウムを使うと雨水で電気エネルギーを生み出せることなど、社会の役に立つ機能を持った様々な物質を創り出すことができると紹介しました。クイズや実演を交えてのお話に加え、授業の最後には元素の実物を観察でき、生徒たちは興味津々の様子でした。講義後は、「実際に様々な物質を見て観察出来たのがとても興味深かった。少しの変化で大きく変わる化学の面白さを感じた」「楽しみながらやることが発見への第一歩なのかなと感じた」などの感想が寄せられました。

クイズや実物を交えながら材料について解説する菊地准教授 クイズや実物を交えながら材料について解説する菊地准教授

「動くがんを狙い撃つ放射線治療技術」工学研究院 准教授 宮本直樹

がんの放射線治療技術の研究開発に携わっている宮本さん。理工系出身でありながら、放射線に関する物理的な知識を生かして医師と共同研究をする「医学物理士」として研究をしています。講義では、放射線ががん細胞の治療に効果的である一方、がんの患部が体内で呼吸によって移動や変形をしてしまうため、正確に放射線を当てることが課題になると解説。放射線の一種である陽子線を使った治療システムを改良し、動くがんの患部に正確にむらなく放射線を当てる技術を北大が世界で初めて確立したと話しました。生徒からは「異分野での連携を知り、学問に対する視野が広がった」「がん治療のメリットデメリットが分かり、放射線治療の研究の大切さがとてもよく理解できた」などの声が寄せられ、最先端の技術を追及する大学での研究に、関心を高めた様子でした。

陽子線を使った治療システムについて解説する宮本准教授 陽子線を使った治療システムについて解説する宮本准教授

「宇宙じんの作り方」 低温科学研究所 教授 木村勇気

木村さんは、宇宙での様々な実験をとおして、宇宙のナノ粒子(宇宙塵)の生成過程を明らかにし、物質進化の謎に迫る研究をしています。実際の無重力実験の映像も交えながら、宇宙の研究は宇宙でやってみないと正しい研究成果は出ないことなどを解説しました。さらに、かつて低温科学研究所の主任研究員もつとめ、世界初の人工雪の製作に成功した中谷宇吉郎の「雪は天から送られた手紙である」という言葉にならって「隕石は宇宙からの手紙」だと考えていると話した木村さん。生徒たちに研究の魅力とともに、夢を持って研究の道に進んでほしいと伝えました。講義を聞いた生徒からは「疑問を持ち研究に望む姿勢がとても興味深く、研究の楽しさを感じられる時間だった」「大学、国を超え、仲間と協同して大きなプロジェクトを成功させていて、とても印象的だった」などの感想が寄せられました。

宇宙塵の生成について解説する木村教授 宇宙塵の生成について解説する木村教授

「がんに直接放射線を集める診断と治療」北海道大学病院 助教 渡邊史郎

核医学は、放射線を出す物質を体の中に入れ、それを身体の機能を使ってがんに集め、診断や治療をおこなう学問です。渡邊さんは、画像診断を用いて疑われる病気を見出し、それを医師たちに伝えています。その役割を「医者のための医者である」と説明しました。また、診断だけではなく治療もおこなっています。放射線には種類があり、それを使い分けることで診断と治療の両方ができると説明。実際の症例画像を見せながら画像検査の有用性を解説した上で、がん細胞だけに放射線をあてる治療について解説しました。生徒たちからは「様々な分野の人達が関係して医療が成り立っているという部分が印象に残った」「放射線治療という言葉は聞いたことがあったが、実際の治療については何も知らなかったため、興味深く聞いた」などの感想が寄せられ、普段あまり触れることのない核医学分野に、関心を持った様子でした。

核医学について解説する渡邊助教 核医学について解説する渡邊助教

日時:2023年10月20日(金)14:15―16:05

会場:札幌南高等学校

参加生徒:1年生 約320名

(広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門)

アカデミックファンタジスタとは?

北海道大学の研究者が知の最前線を出張講義や現場体験を通して高校生などに伝える事業、「アカデミックファンタジスタ(Academic Fantasista)」。内閣府が推進する「国民との科学・技術対話」の一環として、北海道新聞社の協力のもと2012年から継続的に実施しています。今年度は北海道の高校等を対象に31名の教員が講義を実施しています。2023年度の参加教員はこちら

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