創基150周年記念事業 日本酒造りに挑む~生育調査・稲刈り、醸造

<写真>日本酒造りプロジェクトの様子(撮影:広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美)

北海道大学と日本清酒株式会社がコラボし、札幌キャンパスの水田で酒米を育て、日本酒を造ろうという挑戦が進んでいます。教育・研究の成果物である北大のお米を多くの方々に味わっていただこうというもので、プロジェクトには酒造りに関心がある学生20名も参加。学生と職員、企業が協働して、オール北大米による日本酒「北の閃(ひらめ)き」の完成を目指します。その取り組みの中から、夏から秋にかけて行われた米づくりと、冬の酒蔵での醸造体験の様子をお伝えします。

5月の田植えの様子はこちら

夏:生育調査とヒエ抜き

2025年7月1日、田植えから1ヶ月ほど経った札幌キャンパスの水田で生育調査が行われました。北方生物圏フィールド科学センター技術職員・橋本さんの指導のもと、学生たちはまず、サンプルとなる稲を水田で選び取ります。この時期の稲は、稲の茎の中で穂が伸長し始めている時で、その後、穂が出てくる出穂期を経て収穫へと至ります。

調査では、草丈、分けつ数、幼穂長を調べました。まずは、根元から先端までの「草丈」を測り、葉が2葉以上ついている茎の本数(分けつ数)を数えます。「幼穂長」は、サンプルの稲をカッターで縦半分に切り、中で育っている幼穂を調べます。出穂期前後は稲が最も水を必要とするため、幼穂の大きさから出穂の時期を推測し、適切な水管理を目指すそうです。

参加した学生は「茎の中で穂が育っているとは想像もしなかった。育った稲の先端に穂が実るのかと思っていた」と話しながら、興味深い様子で稲を扱っていました。

(左)茎の本数を数える 
(右)引き抜いたヒエを掲げる学生

7月は「ヒエ抜き」も行われました。いわゆる除草作業です。ヒエは、水稲栽培における天敵の一つで、稲より早く成長して日光を遮ったり、土壌養分を奪ったりするなど稲の生長を阻害する恐れがあります。ヒエが種を落とす前に抜くことができれば、翌年以降の雑草繁茂を抑えることができます。

大人の腰のあたりまである稲を分け入ってヒエを探す学生たち。稲とよく似ているため見分けるのに苦戦していましたが、集中力を切らさず水田を歩き、"天敵"を引き抜いた時には充実感いっぱいの表情を見せていました。

秋:稲刈り

暑さが和らぎ始めた9月、水田では稲刈りが行われました。収穫作業の大半は機械で行いますが、学生たちは手作業での稲刈りを体験しました。鋸鎌で稲を刈り取り、前年に収穫した稲わらで結束していきます。乾燥させた稲わらは丈夫で締まりが良いことに加え、土に還るため環境負荷も少ないことから、農作業の現場で伝統的に"天然のひも"として使われているそうです。

(左)稲わらで収穫した稲を束ねる(撮影:広報・コミュニケーション部門 子安奈都子)
(右)稲刈り時期の水田(撮影:広報・コミュニケーション部門 子安奈都子)

酒米を栽培した40アールの水田のうち、特にポプラ並木に近い場所は日当たりなど生育環境として難しい面もありましたが、品質も収量も十分に確保することができました。北大で育てた酒造好適米「きたしずく」だけを使い、 "オール北大米" での醸造がいよいよ始まります。

冬:日本清酒の酒蔵で行う「醸造」

日本酒とは、原材米に国内産の米のみを使って日本国内で製造された清酒をいいます。中でも米、麹、水だけで造られるものは純米酒と呼ばれ、酒米を55%まで削る「北の閃き」は "純米吟醸" に該当します。純米酒は、酒米の下処理、麹造り、酒母造り、もろみ造り、仕上げといった工程を経て造られます。日本清酒の蔵人の協力のもと、学生たちは、酒米の下処理、麹造り、もろみ造りを体験しました。

<酒米の下処理「洗米・浸漬」>

醸造工程の第一段階は、洗米です。米に付着している糠や不純物を水で洗い流し、酒造りに適した水分を吸水させます。一度に10kgほどの米を自動洗米機に投入して洗い、その米を水に漬けて吸水させ(浸漬)、脱水機にかけます。

この日の米の量はおよそ240kg。シンプルな工程とはいえ、吸水時間を厳密に管理しながら何度も繰り返し行うため、気を抜けません。目指す酒質に向けて決められた吸水の目標値があって、タイマーを睨みながら手早く無駄なく動いていきます。室温10℃の部屋で、10℃に保冷された地下水を使い、およそ3時間かけて200kgを超える米を洗った学生と蔵人。終了後、ふたりの顔には晴れやかな笑顔が浮かんでいました。

(左)浸漬中の米
(右)約240kgの洗米を終え、晴れやかな笑顔の蔵人(奥)と学生(手前)

<酒米の下処理「蒸し・放冷」>

洗ったお米は1時間かけて蒸した後、麹用やもろみ用など、それぞれの用途に応じた温度に冷ましていきます。蒸し器から引き上げたばかりの蒸米は、蒸す温度が100℃~110℃あるためとても熱く、塊になっている部分に熱がこもっているので、手でほぐし全体の温度が均一になるようにします。

もろみ用の蒸米は、もろみの仕込み予定温度によってどの程度冷ますかを決めるそうです。この日は、杜氏から22.5℃まで冷ますよう指示があり、学生と蔵人たちは広げた蒸米をくまなく計測しながら、ムラのない仕上がりを目指して手を動かしました。

(左)大型の蒸し器から蒸し上がった米を引き上げる
(右)もろみ用の蒸米の温度を指示する杜氏
(左)熱々の蒸し米を手で広げながら冷ます
(右)広げた米をさまざまなポイントで温度計測する

<麹造り「引き込み・製麹(せいぎく)」>

麹用の蒸米は、適温まで冷ましたら製麹室へ運び込みます(引き込み)。サウナのような環境に保たれていている部屋で、蒸米の塊をもみ崩して広げ、温度と水分量を調整します。目指す値になったら、麹菌の胞子を蒸米に振りかけます。腕を伸ばし、高いところからやさしく一定のリズムで全体に振った後、米の一粒一粒に均等に胞子がつくよう手で混ぜます。30℃を超える部屋の中、学生たちは蔵人の指導を受けながら、真剣な面持ちで作業に集中していました。

(左)蒸し米に麹菌を振りかける
(右)麹菌の胞子が均等にまわるよう混ぜる

<もろみ造り>

もろみは、酒母に麹、蒸米、水を加えて発酵させて造る液体で、これを濾すことで清酒と酒粕になります。もろみ造りは、3回に分けて原料を投入する「3段仕込み」という製法がとられています。この方法だと、清酒酵母の繁殖を待ちながら仕込めるため、常に清酒酵母の数を優位に保つことができ、雑菌や野生酵母の繁殖を抑える効果があるといいます。それぞれの工程は「添仕込み」「仲仕込み」「留仕込み」と呼ばれ、4日間かけて行われます。「北の閃き」のもろみからは、爽やかな香りが漂っていました。最終的にどんな香りに行き着くのだろうと想像が膨らみます。

(左)もろみを仕込むタンクに蒸米を投入 
(右)蒸米を入れたタンクを櫂棒で混ぜる学生たち

<櫂入れ>

もろみが入ったタンクは、櫂棒(かいぼう)と呼ばれる長い棒を使って、朝と夕の1日2回かき混ぜます(櫂入れ)。櫂入れは、沈んでいる米や酵母を均一に行き渡らせ、発酵を安定させるために行われます。「櫂棒をタンクの底につけ、引いて持ち上げます。"米"の字を書くように全体を混ぜてみてください」という蔵人のアドバイスに従い、腕を大きく上下しながらタンクを混ぜる学生たち。「日本酒醸造といえばこの作業が思い浮かぶので、ぜひやってみたかった」と、マスク越しからも嬉しそうな様子がうかがえました。

櫂入れを行う学生たち

およそ1年をかけて行われた、学生と職員、企業による酒造りは、もろみの3段仕込みを終え、大詰めを迎えています。彼らの挑戦の結晶が純米吟醸酒「北の閃き」として、ついにこの春、完成します。

【文・写真:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美】