過去を知り、未来を守る―十勝岳大正噴火から100年

<写真>北海道のほぼ中央に位置する十勝岳(提供:地震火山研究観測センター 青山裕教授)

気象庁によると、日本にある111の活火山のうち、北海道には31(北方領土含む)が存在します。その1つで、北海道のほぼ中央に位置する十勝岳(標高2077メートル)は、1926年(大正15年)の噴火で発生した泥流により、144人の犠牲を出しました。

この「大正噴火」から今年で100年の節目を迎え、火山活動をテーマにしたシンポジウムが3月20日、北海道大学札幌キャンパスで開かれました。オンライン参加も含め、市民ら約130人が参加し、活火山の現状や最新の研究成果について熱心に耳を傾けました。

国内には活火山が111あり、うち31が北海道に存在する国内には活火山が111あり、うち31が北海道に存在する

シンポジウムでは、北海道大学などの研究者4人が登壇し、当時の被害や現在の火山活動の状況について報告しました。

司会進行を務めた地震火山研究観測センター長の高橋浩晃教授司会進行を務めた地震火山研究観測センター長の高橋浩晃教授

開会のあいさつで、地震火山研究観測センター長の高橋浩晃教授は「北海道は活火山が多く、歴史的には地震より火山の噴火で亡くなった人の方が圧倒的に多い地域です。今日のお話が北海道の防災に役立つことを願います」とあいさつしました。

時速60キロで市街地に流れ込んだ泥流

北海道大学広域複合災害研究センターの南里智之教授は、大正噴火で発生した泥流被害の実態を解説しました。 南里教授は、泥流を実際に目撃した当時7~24歳の19名への聞き取り調査や痕跡の調査をもとに、泥流の到達時間を推定しました。

泥流被害について解説する北海道大学広域複合災害研究センターの南里智之教授泥流被害について解説する北海道大学広域複合災害研究センターの南里智之教授

南里教授は、「泥流は場所によって時速60キロという車のようなスピードで流れ下り、火口から20キロメートル以上離れた上富良野町の市街地まで到達しました」と説明しました。南里教授が作成した大正泥流の災害実績図には、泥流による被災度や流下ルート、到達時間が示されています。

氾濫範囲、到達時間、被災度の情報を示した災害実績図(国土地理院発行の2万5千分の1地形図(上富良野)に加筆、南里智之教授提供)氾濫範囲、到達時間、被災度の情報を示した災害実績図(国土地理院発行の2万5千分の1地形図(上富良野)に加筆、南里智之教授提供)

南里教授は「ハザードマップの高度化は地域の特性の把握に役立ち、正しい避難行動や迅速な復旧につながります。また、災害の記憶を後世に継承することは、命を守るうえで最も大切なことです」と話しました。

十勝岳は「前兆」のある火山

地震火山研究観測センターの青山裕教授は、十勝岳の過去1000年の噴火規模と活動傾向を分析し、噴火に至るまでの前兆現象について解説しました。

地震火山研究観測センターの青山裕教授地震火山研究観測センターの青山裕教授

20世紀以降に起こったマグマ噴火は、1926年・1962年・1988年の計3回で、1926年の大正噴火では144人、1962年の噴火では噴石により火口近くにいた5人が犠牲になりました。 青山教授は「3回の中で最もマグマの噴出量は少なかった1926年の噴火で最大の被害が出たのは、噴火と同時に山体崩壊が起こり、大きな泥流災害につながったためです」と指摘しました。

会場からは火山の特徴や観測機器など、さまざまな質問が活発に交わされた会場からは火山の特徴や観測機器など、さまざまな質問が活発に交わされた

また、十勝岳は噴火前に、温泉の温度上昇、噴気活動の増加、地割れなど共通の前兆が見られると説明。近年も2006年以降の山体膨張や2015年の地熱活動域の拡大など、地下構造の変化が観測されていると解説しました。

青山教授は「これらは地下の浅い部分にたまっていた熱が放出されている現象と考えられ、現時点では火山活動の活発化を示すものでないと考えています。ただし、将来の噴火の準備過程を示唆している可能性もあり、継続的な観測が必要です」と述べました。

ポスターセッションでは、活火山の研究手法や観測結果が紹介されたポスターセッションでは、活火山の研究手法や観測結果が紹介された

噴火していない火山の活動を知る意義

地震火山研究観測センターの橋本武志教授は、火山は噴火していない時期でも常に活動しており、その「不安定さ(アンレスト)」をどう評価するかが重要だと話しました。

地震火山研究観測センターの橋本武志教授地震火山研究観測センターの橋本武志教授

火山活動の特徴は山によって異なり、明確な前兆が現れない場合も多いため、噴火予知の方法は確立していません。そこで橋本教授は、地震、地殻変動、ガスなど観測頻度の異なるデータを統合し、火山の不安定度を数値化する指標「Volcanic Unrest Index(VUI)」を紹介しました。

橋本教授は「噴火に至らない火山活動は研究対象として取り上げられにくく、論文にもなりにくい。しかし、噴火していない時期の活動度を定量化できれば、防災や減災、学術研究に役立てられます」と話し、常時観測の意義を強調しました。

会場からは「十勝岳に登山することがありますが、火山ガスが体に及ぼす影響はどのくらいか」とか、「海外の火山地域の住民はどのように防災し、避難しているのか」といった多くの質問が寄せられ、講演者だけでなく会場に居合わせた研究者も交えて活発な議論が行われました。

【文:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 齋藤有香
写真:同 子安奈都子】