【Academic Fantasista 2019】札幌南高等学校にて出張講義を実施(医学研究院 教授 工藤與亮)

出張講義「MRIでアルツハイマー病の早期診断に挑む」を実施

医学研究院の工藤與亮教授は、画像診断専門の医師で、アルツハイマー病など様々な病気のMRI検査法を開発しています。

講義のはじめに、MRIの仕組みについて解説しました。MRIは体の断層画像を得る装置です。X線を使うCTとは違い、強い磁力と電波を使って、体内の原子核が持つスピンの発する応答をみます。
つづいて、工藤教授が現在研究しているアルツハイマー病の早期診断の重要性について話しました。

MRIで使用する磁石の強さについて解説する工藤教授 MRIで使用する磁石の強さについて解説する工藤教授

アルツハイマー病の症状である認知症の患者数は現在、全世界で5,000万人を超え、2050年には1億人を超えようとしています。認知症の治療薬は次々と開発されており、早期発見が出来れば、投薬治療により症状の進行を抑えられる可能性があります。これまでの認知症診断では、VBMというMRI検査で脳の萎縮の程度を客観的に評価する手法が一般的に用いられてきました。そこで工藤教授は、アミロイドベータというたんぱく質が脳内に沈着することに着目しました。アミロイドベータは鉄を含んでおり、MRIによってその沈着を見ることが出来ます。アミロイドベータの沈着は脳が萎縮する前から起こるため、認知症の早期診断、早期発見が可能となります。工藤教授らの研究グループは、企業との産学連携により鉄の沈着を解析するMRI診断技術QSMとVBMを組み合わせた診断法を開発し、実用化に向けて研究を進めています。

  • アルツハイマー病の患者
  • 正常な高齢者

アルツハイマー病の患者(左)と正常な高齢者(右)の脳内に沈着した鉄の量。
アルツハイマー病の患者は赤い色が目立ち鉄の沈着量が多いことがわかる

現在、工藤教授はアミロイドベータの沈着に関連した、脳内の水の流れに注目し、さらなる早期診断方法も開発しています。その際、造影剤の代わりに酸素の同位体O-17を含む水(O-17標識水)を患者に投与することで、水の流れをMRIによって可視化します。一般的に用いられるMRI造影剤には重金属が含まれており副作用やアレルギーのリスクがあるため、O-17標識水によるMRI診断は人体に無害な検査法としても期待されています。

工藤教授は最後に、医学部を目指す高校生へ「医学部での学びは、高校で勉強したことが土台となっているため、今しっかりと学んでほしい」と伝えました。

授業を受けた生徒からは、「MRIならではの強みを生かして、認知症の早期発見を可能にすることが印象に残った」「発見が難しく、アルツハイマー病が増えている現代では、必要な研究だと感じた」という声がありました。

日 時:令和元年10月24日(木)14:15-15:05
会 場:札幌南高等学校
参加者:1年生56名
講 師:工藤與亮(北海道大学大学院医学研究院 教授)

(総務企画部広報課 広報特派員/生命科学院修士課程1年 越後谷 駿)

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