「動物の難病に対する創薬研究」をテーマに講義
今内准教授は家畜やペットの難病、特にがんや感染症に対する薬の開発を行っています。近年、牛は食用や乳用などの需要が高まり、その価値は上がっています。そのため、牛が白血病などの難病にかかってしまうと、酪農家や社会にとって経済的な問題となります。今内准教授が開発した動物の免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-L1/抗PD-1抗体)は、牛の白血病に対して効果が認められ、現在実用化に向けた研究が進められています。

ヒトの免疫チェックポイント阻害薬は、2018年に京都大学の本庶佑教授がノーベル賞を受賞した抗がん薬です。健康な人であっても、常にがん細胞は現れますが、リンパ球がやっつけてくれるため、体は正常に保たれます。しかし、がん細胞が持つPD-L1という「鍵」と、リンパ球のPD-1という「鍵穴」がくっついてしまうと、リンパ球は機能が停止してしまい、がん細胞をやっつけることが出来なくなります。免疫チェックポイント阻害薬は、「鍵」と「鍵穴」との関係を邪魔することで、リンパ球ががん細胞を排除できるようにします。
今内准教授は、この免疫チェックポイント阻害薬を動物へ応用しようと試みました。免疫チェックポイント阻害薬は、「鍵」と「鍵穴」がくっついてしまうことで発症する色々な動物の病気に効果があることを確かめました。犬が患った重度の皮膚がんも完治し、飼い主の方が非常に喜んでいたというエピソードも語りました。さらに、「野生動物の難病に対しても、私たちが作った北海道発の薬を使って、種の絶滅から救ってあげたい」と今後の意気込みについて話しました。ヒトの医学では人為的にがん化させたマウスを使って研究を行いますが、獣医学では自然に発生したがんの症例で治療の効果を評価することができます。そのため、ヒトの医学にも直接的に貢献できるのではないかと今内准教授は考えています。

受講した高校生からは「免疫チェックポイント阻害薬について詳しい説明が聞けた」、「動物の命を助けるという仕事は、人間の医者と同じくらい重みがあり、魅力を感じた」という声がありました。
日 時:令和元年10月24日(木)15:15-16:05
会 場:札幌南高等学校
参加者:1年生39名
講 師:今内 覚(北海道大学大学院獣医学研究院 准教授)
(総務企画部広報課 広報特派員 生命科学院修士課程1年 越後谷 駿)
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@Hokkaido.univ.taiwa
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