【報道関係者向け説明会を実施】新型コロナウイルスPCR検査 唾液と鼻咽頭ぬぐい液の精度は同等

9月25日、新型コロナウイルスの唾液PCR検査に関する論文が、アメリカの感染症学会誌に掲載されました。豊嶋 崇徳教授(医学研究院 血液内科学教室/北海道大学病院 検査・輸血部長)、横田 勲准教授(医学研究院 医学統計学教室)らによる研究成果です。論文ではPCR検査の精度がこれまで考えられていたよりも高いことを示すとともに、唾液による検査が、従来の鼻咽頭ぬぐい液による検査と同等の精度であると述べています。唾液PCR検査は今年6月から保健所等で実施されており、本研究も厚生労働省の協力のもとで行われました。今回の論文を通して、詳細な解析結果が初めて世に出ることとなったのです。それに伴い、9月29日、本学医学部にて記者会見が開かれました。会見には、豊嶋教授、横田准教授、北海道大学病院長の秋田弘俊教授が登壇しました。

記者会見には多くのメディアが参加しました 記者会見には多くのメディアが参加しました

「約2,000名の無症状者を対象とした鼻咽頭ぬぐい液と唾液の比較調査は、世界的に見ても過去最大規模であると言えます」と、豊嶋教授。横田准教授は、「他国で多く行われている調査は、鼻咽頭ぬぐい液で結果が陽性だった人に限定して、あとから唾液の検査もするという方法をとっています。しかし、統計学の観点からすると、それでは鼻咽頭ぬぐい液と唾液を対等に比較したとは言えません。今回、医師である豊嶋先生と、統計学者である私がタッグを組むことで、鼻咽頭ぬぐい液と唾液、どちらも採取させていただいたうえで比較を行うという、本当の意味で対等な調査を実施することができました」と、話しました。

左から横田准教授、豊嶋教授、秋田病院長 左から横田准教授、豊嶋教授、秋田病院長

今回の研究成果を発表する以前にも、豊嶋教授らは鼻咽頭ぬぐい液と唾液の比較調査を行っています。今年4月、北海道大学病院にて、76名の新型コロナウイルス感染者を対象に実施されました。その結果、2つのサンプル間のウイルス検出の全体的な一致率は97.4%に達し、唾液は新型コロナウイルスの検出に有効であることが証明されました。従来の鼻咽頭ぬぐい液によるPCR検査は、採取する側に感染してしまうリスクがあることや、それゆえ検査専用のテントや防御具が必要であること、さらに採取される側は不快感や痛みを伴うなど、様々な課題がありました。豊嶋教授は、新型コロナウイルスの体内への侵入口である受容体が口の中に多く存在するということから、唾液での検査が可能ではないかと考えたのです。「唾液であれば、採取を自身で行うことができ、採取時の不快感などもありません。より簡単で安全な検査方法だと言えます」と、豊嶋教授は説明しました。

研究内容について語る豊嶋教授 研究内容について語る豊嶋教授

また、これまでPCR検査において新型コロナウイルス感染者を正しく陽性と判定する確率は、50~70%ほどだと言われてきました。これは、新型コロナウイルスの感染が1月に武漢で広がった当時の調査から導き出された数字です。新型コロナウイルスは、発症前や発症直後は喉や鼻の細胞に留まっていますが、徐々に胃のほうへと移動していきます。そのため、発症から日数が経過してしまうと、PCR検査での正しい判定が難しいことがわかっています。しかし、武漢で感染が広がった頃はこうしたことが明らかになっていなかったため、不適切なタイミングで行われたPCR検査の結果もデータに含まれてしまっていました。

記者からの質問に答える横田准教授 記者からの質問に答える横田准教授

そこで、豊嶋教授らは、新型コロナウイルスにおけるPCR検査の精度を正確に測ること、そして、発症前の鼻咽頭ぬぐい液と唾液によるPCR検査の精度を比較することを目的に、6月12日~7月7日、全国の保健所と国内2か所の空港(羽田・関西)にて、ふたつの検体採取によるPCR検査を行いました。前述の北海道大学病院での比較調査では感染者のみを対象としていましたが、より早い段階での検査も感染拡大防止には必要であることから、本調査は無症状者に限って実施されました。1,924名から検体を採取した結果、鼻咽頭ぬぐい液と唾液、どちらも陽性と判定されたのは42名、どちらも陰性と判定されたのは1,872名でした。一方、鼻咽頭ぬぐい液では陽性で、唾液では陰性と判定されたのは4名、鼻咽頭ぬぐい液では陰性で、唾液では陽性と判定されたのは6名でした。

これらの結果を踏まえ、感染者を陽性と判定できる確率を表す「感度」を求めたところ、鼻咽頭ぬぐい液では77-93%、唾液では83-97%と、ほぼ同程度であることがわかりました。また、非感染者をきちんと陰性と判定する確率「特異度」も、鼻咽頭ぬぐい液では99.77-99.99%、唾液では99.85-100.00%と、同等であるという結果が出ました。つまり、PCR検査の精度は当初言われていた50-70%よりはるかに高かったこと、そして、検体が鼻咽頭ぬぐい液であっても唾液であっても、同等の判定が導き出されることがわかったのです。また、本会見では語られませんでしたが、横田准教授は後日さらに解析を続け、ふたつの検査の一致率を求めたところ、空港検疫のような有病率が0.3%程度の場合には99.8%、有病率が30%と高い状況であっても9割以上の判定が一致することが確認されました。

鼻咽頭ぬぐい液と唾液では、同等の判定が導き出されることがわかりました(Yokota I et al., Clinical Infectious Diseases, September 25, 2020) 鼻咽頭ぬぐい液と唾液では、同等の判定が導き出されることがわかりました
(Yokota I et al., Clinical Infectious Diseases, September 25, 2020)

豊嶋教授は、「今回の研究成果をきっかけに、日本各地で安全で効率的な唾液PCR検査がより広がっていき、海外へも波及していくことを期待しています」と締めくくりました。

(総務企画部広報課 学術国際広報担当 菊池優)