塩野義製薬との共同研究で創薬に取り組むー国産初の新型コロナ治療薬「ゾコーバ」承認

人獣共通感染症国際共同研究所 教授/北海道大学ワクチン研究開発拠点長 澤 洋文、人獣共通感染症国際共同研究所 客員教授 佐藤彰彦

〈写真〉人獣共通感染症国際研究所の抗ウイルス薬開発研究チーム(左から佐々木道仁 講師、佐藤彰彦 客員教授、澤 洋文 教授、大場靖子准教授)

厚生労働省は11月22日(火)、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の治療薬として塩野義製薬株式会社の「ゾコーバ錠® 125 mg(一般名:エンシトレルビル フマル酸、開発番号:S-217622)」を緊急承認制度(医薬品医療機器等法第14条の2の2)に基づき、承認しました。ゾコーバは、緊急承認制度下での製造販売承認の第一号で、初の国産の飲み薬となりました。

ゾコーバの開発には、本学の研究者たちも携わっています。人獣共通感染症国際研究所 分子病態・診断部門 教授、北海道大学ワクチン研究開発拠点 拠点長の澤 洋文さんは、「本学のシオノギ抗ウイルス薬研究部門の皆さんがBSL3施設で日夜、週末、休日を問わず、細胞実験を継続してシーズを見つけました。それを動物実験で確認し、塩野義製薬と共同してゾコーバの開発、臨床試験、承認に至った全てのプロセスを一緒に経験させていただいた事は、私どもアカデミアの研究者にとって何よりの幸せです。感染した方々の治療の選択肢の一つとしてゾコーバが承認された事は本当に嬉しいです」と、新薬承認に対する喜びを語りました。

シオノギ抗ウイルス薬研究部門 客員教授の佐藤彰彦さん(塩野義製薬 主席研究員)は、「ゾコーバ(エンシトレルビル)によって、多くの患者さんが早期に回復される事を期待しています。今回、塩野義製薬が多くの人財を投入して取り組んだことが、2年という短期間での新薬開発につながりました。そして、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所では、いち早く、細胞、動物系でのコロナウイルス評価系を構築しており、北海道大学の協力なしに薬にはなっていなかったと思います」と話します。また、「この共同研究が成功できたのは、北海道大学と塩野義製薬の信頼関係、協力体制が充実していたからです。今後も、この共同研究を継続し、治療薬の無い新興感染症ウイルスに対する治療薬を創出していきたいと思っています。」と、意気込みを込めて語りました。

国内の大学では最大規模を誇る人獣共通感染症国際共同研究所のBSL3施設(提供:佐々木道仁 講師)国内の大学では最大規模を誇る人獣共通感染症国際共同研究所のBSL3施設(提供:佐々木道仁 講師)

人獣共通感染症国際共同研究所(International Institute for Zoonosis Control、以下、IIZC)は、人獣共通感染症に特化した研究・教育を推進する国際的な中核拠点で、COVID-19に関しても先進的な研究を行っています。塩野義製薬株式会社とは10年以上にわたり抗インフルエンザ薬の開発などに関する共同研究を行っており、2018年には、シオノギ抗ウイルス薬研究部門を設置。塩野義製薬 主席研究員でもある佐藤彰彦さん(客員教授)をリーダーに迎え、さまざまな新興・再興感染症ウイルスに対する化合物スクリーニングを展開しています。

佐藤さんに加え、ウイルス学が専門の澤さん(IIZC 教授)や、大場靖子さん(IIZC 准教授)、佐々木道仁さん(IIZC 講師)らは、COVID-19に有効な治療薬の研究にも精力的に取り組み3 C Lプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を選択的に阻害する低分子経口抗ウイルス薬(開発番号:S-217622)の創製に成功。本学は、塩野義製薬の膨大な化合物ライブラリの中から、有望な化合物を絞り込む役割を果たしました。S-217622は非臨床試験や、臨床試験での結果を踏まえ、2022年2月、塩野義製薬から厚生労働省に条件付き承認制度の適用を希望する製造販売承認申請を行っており、その後、緊急承認制度下での審査が行われ、このたび承認に至りました。

4月に完成した人獣共通感染症国際共同研究所3号棟にあるシオノギ抗ウイルス薬研究部門の実験室4月に完成した人獣共通感染症国際共同研究所3号棟にあるシオノギ抗ウイルス薬研究部門の実験室

澤さんは、「本研究所には国内の大学では最大規模のBSL3施設があり、国立感染症研究所などとのネットワークを活用して数多くの病原体を入手、保管していることが、最大の強みです。佐藤先生のお人柄もあり、塩野義製薬さんとは非常に良い信頼関係が築けています。大学と企業の得意なところを持ち寄って、基礎研究や、創薬分野での社会実装、人材育成などに取り組んでいます」と話します。また佐藤さんは、「北大が所有するウイルスと、塩野義製薬の化合物ライブラリを掛け合わせて、世界中のあらゆる人獣共通感染症に対する創薬の種を見つけ、次世代に残していきたいです」と今後の展望を語りました。

人獣共通感染症国際共同研究所の分子病態・診断部門とシオノギ抗ウイルス薬研究部門では、論文の抄読会や研究ミーティングなども一緒に行い、密に連携しながら研究に取り組んでいる(提供:分子病態・診断部門)人獣共通感染症国際共同研究所の分子病態・診断部門とシオノギ抗ウイルス薬研究部門では、論文の抄読会や研究ミーティングなども一緒に行い、密に連携しながら研究に取り組んでいる(提供:分子病態・診断部門)

澤さん、佐藤さんら、IIZCの抗ウイルス薬開発研究チームでは、今年9月に出血熱を引き起こすラッサウイルスの増殖を抑える化合物の発見についても発表しています。日本発の新たな治療薬を世界中に届けることを目指し、COVID-19以外にも様々な感染症に対する抗ウイルス剤開発に向けた研究に取り組んでいます。

【創成研究機構/広報課 学術国際広報担当 川本真奈美】

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New COVID-19 drug developed by Shionogi & Co., Ltd. and Hokkaido University approved in Japan