「はやぶさ2」が持ち帰った「リュウグウ」のサンプルが北大にやってきた

理学研究院/創成研究機構 教授 圦本尚義

探査機「はやぶさ2」が採取した小惑星「リュウグウ」のサンプルが、6月21日、北海道大学に到着しました。理学研究院/創成研究機構の圦本尚義教授をリーダーとした国際チームによる分析がスタートしています。

サンプル到着時の様子は映像にて公開していますので、ぜひそちらをご覧ください。
以下の記事では、分析についてより詳しい内容を加えてご紹介します。

「はやぶさ2」が持ち帰った「リュウグウ」のサンプルが北海道大学にやってきた【理学研究院 圦本尚義教授インタビュー】(2021/6/21

地球に帰還し、再突入カプセルを切り離した「はやぶさ2」のイメージ図(©JAXA) 地球に帰還し、再突入カプセルを切り離した「はやぶさ2」のイメージ図(©JAXA)

2020年12月に探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星「リュウグウ」のサンプル。その後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に運ばれ、6つの初期分析チームに分配するためのキュレーション作業が行われていました。キュレーションとは、一つ一つの粒子を選り分け、識別情報をつけ、カタログ化することです。今回、その作業の第一段階が完了し、サンプルの分配が始まりました。

北海道大学 理学研究院/創成研究機構の圦本尚義(ゆりもと ひさよし)教授は、初期分析チームの一つである化学分析チームを率いています。6月21日、圦本教授にサンプルを届けたのは、元北海道大学理学研究院所属で、現在、東京大学理学系研究科で研究を進める橘省吾(たちばな しょうご)教授。初期分析チーム全体の統括も務める橘教授が慎重にサンプルを持参し、創成科学研究棟で圦本教授に手渡しました。

リュウグウサンプルは6月21日、東京大学 理学系研究科 橘省吾教授(左)から北海道大学 理学研究院/創成研究機構の圦本尚義教授(右)に引き渡された リュウグウサンプルは6月21日、東京大学 理学系研究科 橘省吾教授(左)から北海道大学 理学研究院/創成研究機構の圦本尚義教授(右)に手渡された

リュウグウなどの小惑星は46億年前に誕生し、地殻変動や熱などの影響を受けず、太陽系初期の記憶を残していると考えられています。その中でも、炭素を多く含むC型小惑星であるリュウグウには、我々生命のもととなる有機物や水を含んでいることが期待されています。初期分析チームは、およそ1年間の分析で、太陽系の起源と進化、地球の海や生命の起源の謎に迫る成果をあげることを目指します。圦本教授が担当する化学分析の他に、石の物質分析、砂の物質分析、揮発性成分分析、固体有機物分析、可溶性有機物分析を担当するチームがあり、貴重なリュウグウサンプルを様々な角度から調べます。

地球の大気に触れないよう、窒素ガス中で密閉された状態で運び込まれたリュウグウサンプル 地球の大気に触れないよう、窒素ガス中で密閉された状態で運び込まれたリュウグウサンプル
北海道大学に運び込まれたリュウグウサンプル。大きさは 2~3 mm程度 北海道大学に運び込まれたリュウグウサンプル。大きさは 2~3 mm程度

化学分析チームは、圦本研究室でおよそ30年かけて開発した「同位体顕微鏡」を駆使して、リュウグウサンプルを分析します。「同位体顕微鏡」は、隕石や小惑星サンプルに含まれる同位体元素の微細な分布を画像化する装置です。同位体とは、同じ元素でも重さの異なるもの同士のことで、同位体比を分析することによって、物質の年代や由来を知ることが出来ます。

太陽系内の物質の同位体比は、放射性物質の影響などを除くとほぼ一様です。これは太陽系誕生時に、物質が高温で熱せられたことにより、それ以前にそれぞれの物質が持っていた固有の同位体比が均質化されたためと考えられています。圦本研究室ではこれまで、隕石中に太陽系の物質とは同位体比が異なる、太陽系形成前の微粒子(プレソーラー粒子)が生き残っていることを発見するなど、惑星や太陽系の起源を探る研究に貢献してきました。

同位体顕微鏡で撮影した隕石の同位体分布。右側の画像に明るい輝点としてプレソーラー粒子が写っている(圦本研究室提供) 同位体顕微鏡で撮影した隕石の16O/18O同位体分布。右側の画像に明るい輝点としてプレソーラー粒子が写っている(圦本研究室提供)

圦本教授は今回の分析について、「北海道大学の同位体顕微鏡はふたつの特徴を持っています。ひとつは同位体比の分布がイメージとして見られること。もし、これまで観測されたことのない同位体比を持った新しい物質があれば、ポツポツと浮かび上がってくるはずです。もうひとつは、とても精密に同位体分析ができることです。例えばもしかしたら、リュウグウが初めて天体になったときの年代が分かるかもしれません」と、期待を込めて語りました。

「はやぶさ2」プロジェクト初期分析チーム 化学分析チームのリーダーを務める圦本教授 「はやぶさ2」プロジェクト初期分析チーム 化学分析チームのリーダーを務める圦本教授

初期分析をとりまとめる橘教授は、北海道大学での分析について、「同位体顕微鏡は、同位体比を使って物質を観察するという世界にもここにしかない装置です。圦本教授はこれまでも新しいものを沢山発見してこられていますし、今回まさに未知のサンプルを調べるわけですから、何か新しいものが見つかるのではないかと期待しています」と話しました。さらに、「今回のリュウグウサンプルの量は、地球と月以外から持ち帰られたサンプル量としては、現在、世界最大です。様々な分析の準備から研究成果まで、このあと続くサンプルリターンミッションにも有効に活用してもらえるような、多くの知見が得られると思っています」と、これからのサンプルリターン時代の第一歩を踏み出した喜びを語りました。

「はやぶさ2」プロジェクト初期分析チーム全体の統括を務める東京大学 橘教授 「はやぶさ2」プロジェクト初期分析チーム全体の統括を務める東京大学 橘教授

圦本教授も、始まったばかりの分析について意気込みを語りました。
「いま玉手箱が開いたところです。これからその玉手箱の中に何が入っているのか、隅から隅まで調べていきます。何か新しい発見があるたびに皆さんにご紹介したいと思っていますので、楽しみにしていてください。」

もし、リュウグウサンプルの中に太陽系が出来る前の記憶を持った物質や、人類が初めて手にする新しい物質が含まれていたら、それを画像として捉えられるのは、北海道大学の同位体顕微鏡だけ。そこからどんなことが分かるのか、期待が高まります。詳しい分析結果は2022年3月頃に論文発表される予定です。

リュウグウサンプルの分析に取り組む圦本研究室のメンバー。同位体顕微鏡の前で リュウグウサンプルの分析に取り組む圦本研究室のメンバー。同位体顕微鏡の前で

【創成研究機構(広報課 学術国際広報担当)川本真奈美、
写真:PRAG 中村 健太】

[映像タイトル]

「はやぶさ2」が持ち帰った「リュウグウ」のサンプルが北海道大学にやってきた【理学研究院 圦本尚義教授インタビュー】(2021/6/21)

[出演]

北海道大学 大学院理学研究院/創成研究機構 教授 圦本 尚義

圦本研究室の皆さん

東京大学 大学院理学系研究科 教授 橘 省吾

[撮影協力]

北海道映像アーカイブス 岡 宏樹

[企画・制作]

北海道大学 総務企画部広報課 学術国際広報担当 菊池 優(ディレクション・編集)、川本 真奈美(インタビュー・ナレーション)