Science Lecture 2021「宇宙にも氷があるって知ってた?―暗黒星雲に浮かぶ氷微粒子とその役割―」を開催
低温科学研究所 教授 渡部直樹
Science Lecture 2021を開催する低温科学研究所は、北海道大学初の附置研究所として1941年に設立されました。以来、雪氷学にとどまらず寒冷圏および低温環境に関わる様々な自然現象に焦点をあてた基礎と応用の研究に取り組んでいます。今年、創立80周年の節目を迎えました。
見えないものが見えてくる!見えかけたはずが、見失う。
ワクワク オヤオヤ フムフムするのが科学です。
はじめに主催者を代表して、読売新聞北海道支社 支社次長 渡辺亮さんと北海道大学 理事・副学長(研究担当)増田隆夫さんの挨拶がありました。渡辺さんは、「サイエンスレクチャーのコンセプトにあるように、ワクワク オヤオヤ フムフムする体験を通じて、科学への興味を深めて欲しいです。これからの時間、楽しく学んでいってください」と話しました。また増田さんは、サイエンスを理解するために必要な「知識」を「蛍」に例えて、「闇夜に光る蛍のように、知っていると見えてくるもの、何が起こっているのか分かるものがあります。知識をどんどん増やして、これまで見えなかったものを目に見える蛍にしていきましょう。」と語りました。
暗黒星雲に浮かぶ氷微粒子とその役割
講義をしたのは低温科学研究所 教授 渡部直樹さん。渡部さんは、宇宙で分子がどのように生成・成長し、どこまで複雑になりうるのかを、実験的に解き明かそうとしています。2008年には、世界で初めて宇宙空間で氷が生成される過程を実験で再現することに成功しました。その他にも、ホルムアルデヒドやメチルアルコールなどの有機物が、宇宙空間で生成する過程を世界に先駆けて再現しています。
宇宙で最初の氷は、星が誕生するはるか以前に-263 ℃の「暗黒星雲」でつくられたといいます。暗黒星雲とは、ガスや塵(鉱物微粒子)が密集した領域で、そこで太陽のような恒星や地球のような惑星、そして太陽系も生み出されたと考えられています。塵が光を遮るため黒い雲のように見えます。
宇宙空間で最初に出来る氷は、暗黒星雲を漂う鉱物微粒子の表面で水素原子と酸素原子が繰り返し反応することで形成し、やがて鉱物を覆って氷微粒子となります。
氷微粒子は、化学反応が起こりにくい極低温・真空状態の宇宙空間で、分子が生成・進化するために重要な役割を担っています。冷たい氷微粒子の表面には、様々な原子や分子がくっつき、長い時間接しているため化学反応が起こりやすくなるのです。渡部さんは、「これまでの研究で、氷微粒子上でどのように反応が進むのかが分かってきました。生命の源となる複雑な有機物やアミノ酸も生成するのではないかと期待しています」と語りました。最後に、暗黒星雲の氷微粒子を材料として、太陽系がどのようにつくられていったのかを解説しました。
実験で宇宙の環境を再現
講義後は、真空状態をつくる装置や液体窒素を使って、宇宙空間のような極低温、真空下での実験を行いました。水や液体窒素が入った容器を真空状態にしたり、気体の二酸化炭素、酸素を液体窒素に入れるとどう変化するのかといった実験を目の前で観察し、参加者たちからは驚きの声があがっていました。
- (左)液体窒素を真空状態にすると 固体に変化する
- (右)酸素ガスを冷やすと液体になり、気体とは異なる性質が見えてくる
中高生の希望者は、南極の氷などが保管されている-50 ℃の低温室見学にも参加しました。参加者たちはこれまで感じたことも無いような寒さを経験し、前髪が凍って白くなっていることなどにも、盛り上がっていました。
終了後、参加した小・中・高校生に、修了証書が渡されました。
本イベントに参加した小学校6年生の中川藍花さんは、「星を見るのが好きで、宇宙に興味があったので参加しました。今日は宇宙でどのように氷が出来るかなど、これまで知らなかったことを沢山知れて嬉しかったです」と感想を語りました。
【創成研究機構/広報課 学術国際広報担当 川本真奈美】
Science Lecture 2021
宇宙にも氷があるって知ってた?~暗黒星雲に浮かぶ氷微粒子とその役割~
日時:2021年10月23日(土)14時00分~15時30分
会場:北海道大学 低温科学研究所 講堂(新棟3階)およびオンライン
対象:中学生、高校生(小学校高学年、一般も可)
主催:北海道大学創成研究機構,低温科学研究所,読売新聞北海道支社
協力:総務企画部広報課
後援:札幌市教育委員会
※Science Lectureは、北海道大学と読売新聞社との包括連携協定のもとに開催しています。