「スマート農業教育研究センター」開所式を開催

<写真>無人で走行するロボットトラクター(撮影:広報課 広報・渉外担当 長尾 美歩)

2023年8月31日、北海道大学スマート農業教育研究センターの開所式が行われました。スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、人間の勘や経験によらず、データに基づいて高品質な農産物を安定的に生産する技術です。同センターは、その教育研究と社会実装の実現に向けて、今年3月に竣工。この開所式を皮切りに本格始動します。

開所式は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 生物生産研究農場内 スマート農業教育研究センター内で開催されました。

左から、東日本電信電話株式会社 澁谷 直樹 代表取締役社長、株式会社クボタ 北尾 裕一 代表取締役社長、農業・食品産業技術総合研究機構 久間 和生 理事長、文部科学省 西條 正明 大臣官房審議官、農林水産省農林水産技術会議事務局 東野 昭浩 研究総務官、北海道大学 寳金 清博 総長(撮影:川本 真奈美)左から、東日本電信電話株式会社 澁谷 直樹 代表取締役社長、株式会社クボタ 北尾 裕一 代表取締役社長、農業・食品産業技術総合研究機構 久間 和生 理事長、文部科学省 西條 正明 大臣官房審議官、農林水産省農林水産技術会議事務局 東野 昭浩 研究総務官、北海道大学 寳金 清博 総長(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 川本 真奈美)

式典には多くの関係者が列席し、寳金清博北海道大学総長が関係者に感謝の意を伝えるとともに「持続可能な農業を大学としてどのようにお手伝いできるか。そのための最初のイグニッション(点火)の場所だ。社会と共創していくうえでの拠点となる」と話しました。

挨拶する寳金 清博 北海道大学総長(撮影:長尾 美歩)挨拶する寳金 清博 北海道大学総長(撮影:長尾 美歩)

続いて、鈴木直道北海道知事ら6名の来賓が祝辞を贈りました。鈴木知事は、「スマート農業の導入は、担い手不足など農業が抱える課題の解決の切り札。このセンターの開所は北海道農業を発展させる大きな好機と考えている」と期待を寄せました。

祝辞を贈る鈴木 直道 北海道知事(撮影:長尾 美歩)祝辞を贈る鈴木 直道 北海道知事(撮影:長尾 美歩)

その後、北海道大学大学院農学研究院 野口伸農学研究院長がスマート農業教育研究センターの概要を説明しました。

このセンターは2階建てで、1階にはこれまで開発されたロボットが並ぶロボット格納庫と、それらを製作・改造する施設があります。一方、2階はデータ通信や情報処理技術の開発の場となっており、ロボット監視室も設置されています。また、3つある実験室は企業へ貸し出すもので、オープンラボとして企業と協業し、新たな技術開発をおこなう場となっています。

開所を迎えたスマート農業教育研究センター外観(撮影:川本 真奈美)開所を迎えたスマート農業教育研究センター外観(撮影:川本 真奈美)
1Fにあるロボット格納庫(撮影:長尾 美歩)1Fにあるロボット格納庫(撮影:長尾 美歩)

この日は、2つのトークセッションも実施されました。セッションⅠでは「科学技術とスマート農業」を、セッションⅡでは「スマート農業の最前線」をテーマに、産学官連携の重要性やスマート農業によって拡がる可能性について、各パネリストによる熱意あふれるトークが繰り広げられました。

「科学技術とスマート農業」をテーマにしたトークセッションⅠ 
  パネリストは農業・食品産業技術総合研究機構 久間 和生 理事長(右)と北海道大学 寳金 清博 総長(中央)、ファシリテーターは野口 伸 農学研究院長(左)(撮影:川本 真奈美)
  「科学技術とスマート農業」をテーマにしたトークセッションⅠ
パネリストは農業・食品産業技術総合研究機構 久間 和生 理事長(右)と北海道大学 寳金 清博 総長(中央)、ファシリテーターは野口 伸 農学研究院長(左)(撮影:川本 真奈美)
司会とトークセッションⅡのファシリテーターを務めたHBC北海道放送 森 結有花アナウンサー(撮影:川本 真奈美)司会とトークセッションⅡのファシリテーターを務めたHBC北海道放送 森 結有花アナウンサー(撮影:川本 真奈美)

その後、関連情報の提供として、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター星野洋一郎教授など3名からショートスピーチがあったのち、監視システムやロボットトラクターの実演会がおこなわれました。

北方生物圏フィールド科学センター 星野 洋一郎教授によるショートスピーチ(撮影:長尾 美歩)北方生物圏フィールド科学センター 星野 洋一郎教授によるショートスピーチ(撮影:長尾 美歩)

実演会では、センター内にあるロボット監視室から、センターに隣接する北大の生物生産研究農場や、岩見沢市内の農場、そして浦臼町にあるそれぞれのロボット農機を遠隔で監視制御する様子が公開されました。監視室は、ネーミングライツを取得したNTT東日本により「NTT東日本 ミライ共創Room」と名付けられ、監視システムには同社が設置した高速大容量通信が使用されています。

「NTT東日本 ミライ共創Room」と名づけられたロボット監視室。各モニターにはロボット農機の様子が映し出される(撮影:川本 真奈美)「NTT東日本 ミライ共創Room」と名づけられたロボット監視室。各モニターにはロボット農機の様子が映し出される(撮影:川本 真奈美)

自動運転をスタートさせると、室内のモニターには無人のロボットトラクターが走行する様子が鮮明に映し出されました。トラクターに設置したカメラでは車両前方の状態を確認することもできます。自動運転で走行中のトラクターの前に人が出ると、AIが人物を検知して車両が自動停止し、警報音で監視室に知らせます。安全性が確保されたこの仕組みは、参加者から多くの注目を集めました。

AIが障害物(人物)を検知した様子(撮影:川本 真奈美)AIが障害物(人物)を検知した様子(撮影:川本 真奈美)

実演会後は、ロボット格納庫やポスター展示の見学がおこなわれ、参加者はセンター内をくまなく見てまわりました。

式典後、野口さんに開所式を迎えた心境を伺いました。「30年以上スマート農業技術の研究を行ってきた者として、今回のセンターの開所は、率直に嬉しく思います。また、開所式では数多くの産官のパートナーにご出席いただき、センターのめざす目標を共有できたと思いますので、これからスマート農業に関する様々な組織との交流・連携がますます円滑に進むことを期待しています。センターのミッションである『学生教育』『研究開発』『技術実証』『社会啓発』を北方生物圏フィールド科学センターとともに組織的・体系的に進めていくことも楽しみです。」

また、今後の展望については、「スマート農業教育研究センターは、自治体・企業・他大学との協働体制を構築して、スマート農業の研究開発と人材育成、そして研究成果の社会実装をさらに協力に進めてまいります。すでに私たちの研究内容は海外からも注目されていますが、今後センターを拠点として、世界最先端のスマート農業を実現し、北海道から日本全国、そして海外に展開して、世界の食料問題の解決に貢献することを目指します」と話しました。

センターについて説明する野口 伸 農学研究院長(撮影:長尾 美歩)センターについて説明する野口 伸 農学研究院長(撮影:長尾 美歩)

同センターは3月の竣工以降、ドイツからの視察団が遠隔操作の実演を見学するなど、国内外から注目を集めています。今後は、産官学の協働体制をつくり上げ、スマート農業の研究開発と人材育成、そして社会実装を進めることで、人材不足や農業技術の継承など、世界が直面している課題解決への貢献が期待されます。

【広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美】