札幌キャンパスの歴史的建造物が北海道大学ワイン教育研究センターとして再生

<写真>農学研究院 曾根 輝雄 教授 ワイン庫にて(撮影:広報課 広報・渉外担当 長尾 美歩)

札幌キャンパスの中でも目を引く、白と淡いグリーンに彩られた美しい佇まいの建造物は、1901年に建てられたものです。かつては昆虫学及養蚕学教室として使われたこの建物が「北海道大学ワイン教育研究センター」として生まれ変わりました。時を経て、北海道産ワインの研究、プロモーション、人材育成の拠点として新たに活躍します。

リノベーションされた旧昆虫学及養蚕学教室(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美)リノベーションされた旧昆虫学及養蚕学教室(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美)

この建物の保存改修は、文部科学省の事業費と、北海道大学フロンティア基金寄附事業「エルムの森プロジェクト」への寄附金により実現したものです。9月28日におこなわれた開所式には、北海道知事やワイン生産者、そして、この事業を支援した寄附者などが列席しました。

式典のなかで寳金清博北海道大学総長は、寄附者への感謝の言葉とともに「北海道ワインバレーの要としての施設になっていきたい」と述べました。

ワインカラーのネクタイで挨拶をする寳金 清博 北海道大学総長(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 川本 真奈美)ワインカラーのネクタイで挨拶をする寳金 清博 北海道大学総長(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 川本 真奈美)

続いて、鈴木直道北海道知事ら5名の来賓から祝辞が贈られ、その後、農学研究院教授で北海道ワイン教育研究センター長の曾根輝雄さんからセンターの説明がありました。

今回の保存改修は、「文化財の価値を保ちながら、次の100年に耐える」ことをコンセプトに、工学研究院 小澤丈夫教授が建物の改修計画を行いました。建物の中央部にあるギャラリースペースの天井は、当時の梁がそのまま見える形で補修されています。また、天井の合板と床材には、北海道大学の研究林の木材が使用されていて、北大の昔と今が融合している空間となっています。曾根さんは、ここでワインのテイスティングを楽しめるよう、2024年春頃をめざして一般開放の準備を進めていくといいます。

 工学院教授 小澤丈夫さん(右)と学生たち。模型を囲んで(撮影:川本 真奈美)
  工学院教授 小澤丈夫さん(右)と学生たち。模型を囲んで(撮影:川本 真奈美)
 当時の梁を活かしたギャラリースペースの天井(撮影:長尾 美歩)
  当時の梁を活かしたギャラリースペースの天井(撮影:長尾 美歩)

一方、プロモーションホールとイノベーションラボの天井には、透かし彫りが印象的なシャンデリアベースが復元され、室内のレトロな雰囲気を一層盛り上げています。プロモーションスペースは、ワイン関連のセミナーや講座を行う場として活用され、ワインを手にしながらのコンサートなども開催される予定です。

 シャンデリアベースが印象的なプロモーションスペース(撮影:長尾 美歩)シャンデリアベースが印象的なプロモーションスペース(撮影:長尾 美歩)

イノベーションラボでは、ワインづくりに関わる土壌などの研究をおこなうほか、微量の果汁やワインから糖度や酸度など複数の数値をごく短時間で算出する機械があり、自力での分析が難しい生産者をサポートします。ほかにもワインの香りの定量化を目指す共同研究をおこなうなど、曾根さんは、「北海道ワインの価値をあげるような研究を進めていきたい」と意気込みを語りました。

イノベーションラボの室内(撮影:川本 真奈美)イノベーションラボの室内(撮影:川本 真奈美)

センター裏手にある旧昆虫標本室は、ワイン庫に生まれ変わりました。かつては、昆虫学者の松村松年により日本国内有数の昆虫標本が所蔵されており、その存在を国際的に知られていた石造りの倉です。このワイン庫には、ワインの保存に適した冷水による空調管理が導入されていて約1,800本のワインが貯蔵でき、南は函館から北は北見まで約50の道内ワイナリーのワインが並んでいます。将来は、道内ワイナリー商品を預かって価値を高めるワインバンクもおこなっていきたいと曾根さんはいいます。

学術雑誌の名称から「Insecta Matsumurana」と名付けられたワイン庫学術雑誌の名称から「Insecta Matsumurana」と名付けられたワイン庫
ワイン庫内(撮影:長尾 美歩)ワイン庫内(撮影:長尾 美歩)
IMG_3734.JPGワイン庫内を見学する鈴木 直道 北海道知事(撮影:川本 真奈美)

庫内中央には楡の木のテーブルがあり、両脇にワインセラー、正面には昆虫の標本が展示されていて、窓からはエルムの森が見えます。存在感のあるテーブルについて、「入口側から見ると、まるで楡の木が立っているみたいでしょう。そしてその先の窓からは実際に楡の大木が見える。そういった物語性を大切にしました」と、今回の保存改修に携わった農学研究院 教授の西邑隆徳さんは話します。

リノベーションに携わった農学院教授 西邑 隆徳さん(撮影:長尾 美歩)リノベーションに携わった農学院教授 西邑 隆徳さん(撮影:長尾 美歩)

壁に据え付けられた棚には、松村松年が名付けた昆虫の標本などが展示されています。松村松年の昆虫学を受け継ぐ総合博物館 教授 大原昌宏さんによるこの展示は、当時の空気感まで再現されたかのようです。

昆虫標本を展示した総合博物館 教授 大原 昌宏さん(撮影:長尾 美歩)昆虫標本を展示した総合博物館 教授 大原 昌宏さん(撮影:長尾 美歩)

式典終了後、センター開所について曾根さんは、「うれしい気持ちと身が引き締まる思い」と話しました。ワインづくりには土壌や気候、微生物、マーケティング、そして醸造で出る廃棄物までさまざまな研究課題があります。今回のセンター開所をひとつの節目とし、総合大学の強みを活かして多角的な見地からワイン研究を進めていくといいます。また、曾根さんによると、はじめて北海道でワインが作られたのが1876年、そして北海道大学が創立されたのも同じ年です。北大が創基150周年を迎える2026年に2つの「150周年」を合わせた周年イベントも今後考えていくとしました。

報道陣からインタビューを受ける農学研究院 教授の曾根さん報道陣からインタビューを受ける農学研究院 教授の曾根さん

歴史を受け継ぎ、たくさんの人の想いによって再生された北海道大学ワイン教育研究センター棟。学び、研究し、そして人々が集う場として、北海道ワインをエルムの森から盛り上げていきます。

【広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美】