WASHとQOLの向上で、若者に希望を与える

アイヌ・先住民研究センター 助教 シコポ・ニャンベ

<写真>シコポ・ニャンベ助教(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 齋藤有香)

「WASH:WAter, Sanitation, and Hygiene(水・トイレ・衛生)」における不適切な習慣は、病気を引き起こしたり死期を早めてしまいます。北海道大学アイヌ・先住民研究センター、及び先住民・文化的多様性研究グローバルステーション(GSI)のシコポ・ニャンベさんは、WASHの分野で変革を起こすには大変な労力が必要だと感じてきました。ニャンベさんは、ザンビアの若者を巻き込んだ参加型アプローチで、正しいWASHの習慣を地域社会に広めようとしています。

ザンビアの首都ルサカには300万人以上が暮らしていますが、その約7割は都市周辺部に住んでいます。「都市周辺部」は、ニャンべさんの研究では「スラム街」と同義です。これらの地域は、水道や下水道など公共の設備が限られているのが特徴だといいます。

ニャンベさんは、ルサカの都市周辺部における一般的な給水システムについて、「多くの建物や家庭に水道がありません。水を汲むには、共同の水道施設まで行き、列に並ばなければいけません。また、24時間いつでも水を汲めるわけではない場所もあります」と説明します。

不十分なWASHシステムと管理は、汚染や病気(下痢、コレラ、腸チフス、赤痢など)、そして最終的には死につながります。ニャンベさんは、ザンビアにおける死亡の約11.4%がWASHに関連していると指摘。、都市周辺部では、雨季の初めに下痢性疾患が流行する傾向にあるといいます。

ルサカでの共同水道のひとつ (提供:Dziko Langa ) ルサカでの共同水道のひとつ(提供:Dziko Langa)

2017年、ニャンベさんは「Dziko Langa」(ジコ・ランガ)の設立を支援しました。「ジコ・ランガ」はニャンジャ語で「私のコミュニティ」という意味で、ルサカ周辺都市の子どもたちと若者で構成される、コミュニティのwell-beingを願うグループです。彼らは、研究結果に基づいて地元の人々がより良い生活環境を構築するよう活動しています。

ニャンベさんは他の研究者たちと共同で、ジコ・ランガで研修を行っています。研修は、WASH、コミュニティ貢献活動、データ収集などに関するものです。研修生たちが、学んだことをコミュニティの他の人々にも伝えてくれることが期待されます。「ジコ・ランガは、私たち研究者のものではなく地域社会のものです。私たちは、研修や資金調達などをサポートします。はっきりした目標がある研究プロジェクトには終りがありますが、地元の人たちの生活はずっと続きます。だからこそ、私たちは正しい知識を後世に伝えたいのです。」

ジコ・ランガは参加型アクション・リサーチ(Participatory Action Research、PAR)の一環です。ニャンベさんは、PARは現地の人々や先住民の人たちが参加する研究手法として適切だと考えています。「PARでは、研究者と地元住民の両者が対等にコミュニケーションをとることができます。研究者である私たちは、いわゆる学術的資源を持っていますが、現地の人々ほど事情に精通しているわけではありません。PARを通じて、現地の人々の声を聞くことで、彼らとつながることができるのです。」

北大の研究者らによるジコ・ランガの若者を対象としたワークショップ(提供:大学院工学研究員 片岡良美)
北大の研究者らによるジコ・ランガの若者を対象としたワークショップ(提供:大学院工学研究院 片岡良美)

現地の若者が自分自身の声を伝える方法のひとつが「フォトボイス」です。ジコ・ランガの若者たちにカメラを提供し、彼らが日常生活、特にWASHの状況を撮影します。同様に、小さい子どもたちには絵を描いてもらいます。こうしたビジュアルを通して、自分たちの文化やコミュニティの価値観を反映しながら、自分たちの視点を明確に表現できます。

フォトボイスのメリットについて、ニャンべさんは話します。「フォトボイスを使えば、若者は自信を持って目の前で起きていることを自由に共有することができます。そうすることで、自分たちが自分たちの生活の『専門家』であることがはっきりと理解できるのです。」

撮った写真はそのままにするのではなく、次のステップである介入のためにさらに分析されます。「私は現在、『介入する最善の方法は何か。改善を実現するための支援をどのように得るか?』ということに焦点を当てて研究を進めていますが、この問いに答えるためには、現地の人々の声に耳を傾けることが重要です。なぜなら彼らの生活に関しては、彼らのほうが私よりも優先順位を知っているからです」

若者たちが始めた介入は、小規模なものでは、戸別訪問によるゴミ分別ワークショップや地域清掃があります。大規模なタイプの介入では、より広範なコミュニティと知見を共有するために彼らの写真や絵などの作品を展示しました。2018年に開催された最初の展示会には、国会議員、メディア、研究者、地域住民が参加しました。

ジコ・ランガの子供たちや若者を巻き込んだ取り組みのひとつは 2018年のジコ・ランガ衛生フェスティバルで形になった(提供:ジコ・ランガのSamuel Hanyika) ジコ・ランガの子供たちや若者を巻き込んだ取り組みのひとつは2018年のジコ・ランガ衛生フェスティバルで形になった(提供:ジコ・ランガのSamuel Hanyika)

ジコ・ランガは現在、ザンビアのNational Youth Development Councilに登録されています。また、毎年開催されるZambia Water Forum and Exhibition(ZAWAFE)などの会議に出席しています。このような機会を通じて、さまざまな関係者(寄贈者、WASH関連の専門家、起業家など)や他のコミュニティとのネットワークを築いています。
2024年3月27日、ジコ・ランガの活動の詳細を記した学術論文が、国際学術誌『Trajectoria』に掲載されました(動画あり)。

ニャンベさんは、どのコミュニティにもそれぞれのWASHにまつわる課題があると話します。「問題は似ているかもしれませんが、体制や構造、文化や環境は異なります。例えば、日本では高齢化が進み、衛生施設を管理する人員が減少しています。さらに、日本はWASHと密接に関連している『生理の貧困』(生理用品を買うお金がなかったり、利用できない環境にあること)にも直面しています。」

北海道大学の同僚たちとともにニャンべさんは、WASHに関する懸念が世界的にあるという共通認識の下、現在「Co-Co WASH」と呼ばれる別のPARプロジェクトでも重要な役割を果たしています。この多国間協力には、ザンビア、南アフリカ、ボツワナ、そして日本の研究者や若者たちが参加して、環境アセスメント(環境影響調査)も行われています。

この記事の原文は英文です(Spotlight on Research - Instilling hope in youths for better WASH and life quality | Hokkaido University

【再編:広報・コミュニケーション部門 Aprilia Agatha Gunawan】