まるで生き物のようにダイナミックで謎多き火山に、観測と計算で迫る

理学研究院 助教 田中良

リサーチタイムズとesse-sense(エッセンス)のコラボレーション記事をお届けします。esse-senseは、分野の垣根を超えた研究者たちのインタビュー記事を通して「あなたの未来を拓く」をコンセプトに、株式会社エッセンスが運営するウェブメディアです。本学の研究者たちにもスポットライトを当て、インタビュアーである西村勇哉氏(エッセンス 代表取締役)が、最先端の研究、そして研究者ならではのものの見方や捉え方に迫ります。ライターはヘメンディンガー綾氏が務めました。

今回インタビューした田中良さんは、サッカーやアメフトで鍛えた体力と精神力を研究の世界でも存分に発揮するという異色の研究者です。田中さんの研究対象は活火山。観測と流動数値計算に基づく「火山活動メカニズムの解明」をテーマに研究を続けています。インタビューでは火山研究に行き着くまでの経緯から、熱水流動数値計算と呼ばれる手法を用い、火山体内で熱水がどのように振る舞い、地上観測にどんな影響を与えるかを調べる研究の一端についてお話を伺いました。

田中良
埼玉県出身。北海道大学大学院理学研究院 助教。2012年北海道大学理学部地球惑星科学科 卒業。2017年 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻博士後期課程修了後、北海道大学研究員となり、2019年から現職。十勝岳や雌阿寒岳を主なフィールドに、衛星やドローンを用いた火山観測にも取り組んでいる。

大学時代に向き合ったアメフトが今に活きている

西村 田中先生は、なぜ北大の理学部地球惑星科学を選ばれたのでしょう。

田中 実は、ちょっと消極的な理由です。前期の入試で京都大学の総合人間学部に落ちてしまって。祖父母が函館に住んでいたり、父が小樽出身で北海道にゆかりがあったので後期試験で北大の理学部を受験したんです。合格した後、最初は動物の進化の歴史に興味があったので生物を学ぼうかと思っていたんですが、僕は高校で生物をやってなかったということもあり、シナプスとかミクロの話から入った時点で挫折してしまって、学科を分ける際に数学科に進むか地球惑星科学に進むかという選択になりました。1年生の時に南極入門という講義があって、南極の深層から採取した氷は空気が圧縮されているので、溶ける時にパチパチ音がするとか、そういう面白い授業をたくさん聞いているうちに、なんとなく地球惑星科学を選択しました。

西村 僕は阪大の人間科学部出身なんですけど、学ぶことは京大の総合人間と結構近くて、心理学と社会学とか、人類学とか、人間寄りのイメージです。そうした人間学部が、今火山を研究されている田中先生のチョイスに入るのがおもしろいですね。その中で、今度は火山に出会われるわけですけど、生物から地質を選ぶというのも相当なシフトですね。

田中 火山の研究=地質の研究というイメージがありますが、火山研究には火山物理学での観測と、あとは地質学や物質化学といった化学的なアプローチの2つの手法があるんです。言い換えると、火山の今をどうにかして捉えたいという研究者と、噴火して積もったあとの岩石から火山を想像する研究者。僕は火山物理の方の人間で、火山から噴気が高く上がっていたり、毎年観測を継続すると少し崩れているのがわかったり、たまに硫黄が溶けだしていたり、直径100〜200メートルぐらいの穴があいていたりするのを見みて「おお、すごい」と思うタイプです。そんな場所は他にないですし、山って無機質だけど生き物のようだと思います。

有珠山の銀沼火口というところでドローンを用いて撮った写真有珠山の銀沼火口というところでドローンを用いて撮った写真

西村 ダイナミックな動きという意味では生命と一緒ですね。前段の話を聞いていて、なお一層納得感があります。これまで100人ぐらいの研究者にインタビューをしていますが、田中先生は新しいタイプの研究者だなと感じます。ちなみに大学時代のアメフトのポジションはどこだったんですか?

田中 ディフェンスバックですね。そこまで体はゴツくないですが、守備の一番後ろでした。高校時代はサッカー部で、球技が好きなんですね。ディフェンスの一番後ろも基本的には球技で、ボールにめがけて行くのが仕事なんです。アメフトって、ボールに1回も触らない人もいる中で、ある意味では多様性というかいろんな人がいるからこそ強くなれるのがいいところなのですが、その経験は、今の人生にも活きてますね。

西村 具体的には?

田中 例えば観測では火山にガスマスクをつけて25キロのバッテリーを運んで穴を掘って行うのですが、パワープレーな部分も活かせる楽しさがありますし、私は岩石とか地質の分野が苦手なんですが、そこを別の研究者が詳しく調べてくれることによって、地下で起こってるはずのことが岩石からわかったりする。そこのインタラクションで研究がもっと上にいけるみたいな思想は、アメフト部の中で培われたかなと思います。

十勝岳三段山から振子沢噴気孔群の熱映像観測の様子十勝岳三段山から振子沢噴気孔群の熱映像観測の様子
有珠山でのGNSS(全球測位衛星システム)観測。噴火時期だけでなく噴火位置を予測するための観測研究有珠山でのGNSS(全球測位衛星システム)観測。噴火時期だけでなく噴火位置を予測するための観測研究
吾妻山でのドローンを用いた空中磁気測量吾妻山でのドローンを用いた空中磁気測量

火山はどうして謎が多いのか

西村 なるほど。北大のウェブサイトの自己紹介欄で「謎多き火山の魅力に惹かれた」とありましたが、火山って確かに中身は見えないですが、身近にあるし、昔からすごく研究がされていたイメージなのですが。どんなところが謎なのでしょうか。

田中 「見えない」ことが半分ですね。想像も観測もたくさんできるけれど、火山の中は見えないから答え合わせができない。北海道には北方領土を覗くと20の活火山があって、北大はそのうち5つの火山を主要に見ていますが、一つひとつの火山で特徴が違います。そして、なぜこの違いが生まれるかもわかっていないんですね。昨日たまたま有珠山に観測に行っていたんですが、今噴気が出ている場所も、なぜそこから噴気が出ているのか、なぜその温度になっているのか、想像はできるけれど、次の噴火にどう繋がるのかなど、実はわからない。次に噴火するのがいつかも、正確にはわかりません。他の火山でも、どこにどれぐらいの量のマグマが溜まっていて、そのうちの何パーセントが噴火するマグマかわかっている火山はほとんどありません。しかも、噴火が起きるたびに、なぜ噴火をしてなぜ終わったのだろう、と謎が増えていきます。

西村 ジオパークでマグマの地下の図があるんですけど。大体このぐらいの深さにある、というのは「想定」なのでしょうか?

田中 わかっている部分ももちろんあるんですが、マグマ溜まりは必ずしも火山の真下にあるわけではないということが最近わかってきました。ですので、完全には間違ってはいないけど、新しい考えでいくと「こうやって描いていいのかな?」と思うところはありますね。

西村 火山は「山」という漢字を書きますが、どちらかと言うと、マグマや地下を外からどう測定するのか。そういうイメージでしょうか?

田中 まさに仰る通りですね。火山と言っても、山が積もっている部分は火山の中の表層の一部。標高で言うと日本だと3千メーターぐらいまでですが。そもそも、マグマ溜まりは10キロ、20キロ下にあるので、そこからの一連を見ると、尖っている部分よりももっと下、海よりもさらに下のところでことが進んでいる方が断然多いですね。

西村 そうか。一方で山であることは重要なのでしょうか?

田中 まず、そもそも火山で噴火したから山になっているんですね。それから僕が今取り組んでることの一つですが、有珠山は山の天辺から噴火することもあれば、昭和新山のように......。

西村 横にポコッと出ている山ですね。

田中 はい。元は畑だったところがいきなり噴火して、地震があり、隆起して山になりました。山頂から噴火することもあれば山腹から噴火することもある。山腹のどこから噴火するかも、まだよくわかってないんです。

麦畑が隆起してできた昭和新山麦畑が隆起してできた昭和新山

西村 なるほど。火山って、古傷みたいなものですね。

田中 そうですね。完全に推測ですが、古傷が1回できるとかさぶたになって、そこはもう開かなくて違う傷をつくりたがる。でもなぜか山頂だけは噴火口として使える。そんな不思議なことをやっているようにも見えます。

西村 火山によって噴火のタイプは違うのですか?

田中 結構違います。山頂からずっと噴火する火山もあれば、山腹にいきがちな火山もある。それが山体の影響なのか、もっと深いところで決まるのかわからないんですね。頭に山が乗っていると、ガードされて、そこから噴火しないような気がしたんですけど、最近学生と粉をぎゅっと詰めた火山の模型に下から水飴をエアコンプレッサーで流す実験を行なっているのですが、山を置くとそこに噴火が吸い込まれていくような結果になりました。他の研究でも同様の結果が発表されています。ですので、山が噴火口の上にちょっとでも乗っていることで噴火する場所が変わる可能性もある。山があることの重要性というか、意味はそんなところにもあります。ただ山腹からも噴火することもあるので、謎が謎を呼ぶんです。

西村 なるほど。どんどん謎が増えますね。山があるとマグマが出る時に大変で、そこからはマグマは出づらいということですか?

田中 そうですね。地面を割って上がってくるのは大変です。一般的には、一番割りやすい方向に割ると言われているのですが、上から抑えられてるところを横に割っていくのも大変なんですね。だから抑えられている方向にビュッと行った方がいいんじゃないか、とマグマが思っているかはわかりませんが。

西村 装置をつくって実験でわかることがまだまだ多いんですね。

田中 多いですね。火山に謎が多い理由の一つは、やっぱり噴火の回数が少ないことが挙げられます。例えば有珠山はおよそ30年に1度の周期なので、わかることが少ないんです。

西村 噴火のモデルはあるんですか?

田中 ありますね。流体力学などを駆使してマグマが地下から上がってくる間にどういう振る舞いをするのか、どういう状態で最後に地表から出るのかを数値計算することはできています。それでも、どんな噴火でも再現できるわけではないですし、今まで経験した噴火をできるだけ表現するために、噴火のモデルについての研究がまさに今発展してきてるところですね。

西村 地下は同じ土でできているわけではなくて、地質がグジャグジャですよね。実験でそのグジャグジャ感もうまく表現できるんですか?

田中 グジャグジャ感を不均質というのですが、それが良いのか平均した物性が良いのかは、まだあまりわかってないですね。

西村 なるほどね。マグマにとっては関係ないのかもしれない。

田中 そうです。人間からするとグジャグジャしているんだけれど、マグマにとっては関係ないかもしれない。マグマの上昇の研究では、地盤が盛り上がったらどこから噴火するとか、地層が2層とか3層だったらどうなるか、そこに割れ目が1本入っていたらどうなのか、考えることがまだ山ほどあって、まだあまり不均質での実験はされていないのではないかなと思います。

西村 火山研究って、地震研究のようにされていると思っていたのですが、まだできていないことも残っているし、謎が多いこともすごくよくわかりました。火山について学ぶ学生はわからないことを追求するのを楽しんでいるのか、それとも、純粋にやっぱり火山が好きでやっているのでしょうか?

田中 いろいろだと思いますね。火山とか地震を知って防災に活かしたいという人たちが半分ぐらいいるかなという気がします。あとの半分は、火山に行って温泉に入ってお酒が飲みたいとか(笑)、火山の魅力に惹かれてやまない人ですね。

西村 温泉はほぼ100%セットで出てくるんですか?

田中 大体そうですね。私も山登りと温泉とビールと地酒がなかったら、こんなに研究者を続けることができていないだろうな、と思うぐらいに楽しいところはありますね。

研究者を志したきっかけ

西村 研究者になっていこうと思われた背景も教えてください。

田中 修士課程までは、火山が噴火する時にマグマがマグマ溜まりを出発して、土管みたいな状態の中を上がって地表に到達するまでを数値計算していたんです。山で実際に測りたい気持ちがあったけど、何を測ったらいいかがわからないから、数値計算で一番肝になるパラメーターを知れば、何を測ればいいかわかるのではないかと思って。ただ、北海道の山はなかなか噴火しない、つまり自分が計算しているものは目の前で起こらないので、噴火する時の数値計算をやっていても、ちぐはぐしていたんです。

それでも、マグマから出たガスや雨水と浸透してきた水が混ざり合って、火山の地下で熱いお湯がぐるぐる回って一部が温泉として流れ出ていたり、火山の上で噴気として出ている気体を計算できるツールがあれば、観測できるものを計算できることになるなと思って、ドクターの2年目ぐらいから数値計算を始めました。

中でも一番キーになるのは、圧力と温度の関係だと思っていて、それを調べられる地盤変動と噴火口から出ている熱の量を調べる研究に絞りました。とはいっても、マグマがある意味では火山の主役でもあるので、自分の中ではそこまで絞っている気もしなくて。最近は、マグマでも水でも流れをちゃんと考えて、観測でそれをどう捉えるか、どう見えるかを学生と一緒に研究していますね。

西村 なるほど。圧力という言葉が出ましたが、圧力によって地場が変わるということですか?

田中 地盤が変わるんです。地面の隆起沈降が変わるということです。熱と圧力は、セットなんですね。熱を放出する時に、ホースの水で考えると、水圧を強めるには元栓を思い切り開ければいいじゃないですか。あれは、要は根っこの圧力を高めているわけですよね。

西村 確かに。

田中 下の圧力が高まれば上から出てくるものは増えるはず。それが高い温度を持っているので熱を一緒に運んでくる。なので、結局ものが流れるためには圧力がキーになる。でも、下の圧力って直接測れないので、ものを運んでいる熱を介して、熱が増えたから、下からものを出そうとする力が増えているのではないかと推測します。熱を測ることで地下の情報である圧力まで辿り着くイメージです。

西村 量ではなくて熱なのはなぜですか?

田中 量でもいいのですが、水蒸気はその辺りにたくさんあるので測るのが大変なんですよね。

西村 なるほど、一方熱であれば測れる。

田中 熱で測る方が少し楽です。もちろん、SO2(二酸化硫黄)の量も測っています。今大気汚染などの問題を測るために衛星が結構飛んでいて、空からSO2の量を結構細かく見れるようになってきているので、SO2をたくさん出している十勝岳の活動を見ています。

西村 衛星で見られるのはおもしろいですね。

田中 おもしろいし、楽ですね。十勝岳は車でここから3時間ぐらいはかかりますが、衛星だと毎日1回、昼12時ぐらいの情報がネット上にアーカイブされるのです。

西村 毎日測ると見えてくる変化は違ったりするものですか?

田中 そうですね。まずは、地震や地殻変動は秒単位のデータがどんどん蓄積されていきますが、火山のガスは1年ごとのデータしかないと、その間に何が起こったのかさっぱりわからない。あと火山は雪が降るなど天気の影響や季節変動があるので、春と秋で火山の変化を見ているのか季節の変化を見ているのかわからないことがあるんです。それでもずっと測っていると見えるものがあるんです。

西村 これから、まだまだわかることがいっぱいあるんですね。

田中 どんどん増えていくと思います。今までは1年に1度しか観測できかなかったデータが毎日取れるようになると、噴火前にどんなことが起きるのか、噴火してない時にどんなことが起きているのかがわかってくるし、それを知りたいと思っています。昨日まで有珠山でCO2の量を測っていたのですが、それは2000年の噴火の半年前にCO2量が増えていたという結果があったので、どのタイミングからCO2量が増えるのか、噴火の前には本当にCO2量が増えるのかを知りたくて計測していました。

地盤変動と磁場変動の関係を研究して見えてくるもの

西村 「地盤変動と磁場変動の関係」の研究についてもお伺いしたいです。

田中  田中 磁場変動の話ですね。火山の地下の様子を知るために、地下の地殻変動と磁場変動を測る研究もしているんです。そこでは圧力と温度を測ることがキーになっています。例えば水蒸気爆発がイメージしやすいですが、液状のものが急激にガス(気体)になると体積が一気に増えてぼんっと爆発する。もし圧力が高くても、温度が低ければ噴火の危険性は低いと考えられる。なので、火山の中のマグマが液状とガスが混じっているのか、温度が上がっているのか、下がっているのかを地上で測ることはとても重要なんです。

また磁場変動についてですが、フランスの物理学者ピエール・キュリーが磁石の性質をもつ金属は、ある温度を超えると磁石の性質を失ってしまうことを発見しましたが、実はそれと同じようなことが火山でも起きていると考えられるんです。つまり岩石が温められると、岩石が持つ磁石の力が弱くなっていく。なので磁場の変動を地上で測ることで、地下で温度が変化しているかもしれないと推測できます。

西村 温度が上がってきていると、磁場が消失してきているかもしれないと考えられるのですか?

田中 そうですね。ひとつの指標として考えることができますね。

西村 でも磁場に影響を与える要因が他にもあるので、別の測り方で測ろうという研究をされているんですね。

田中 はい。例えば圧力がかかっても磁場は減ることがあるので、圧力を高めながら温度を下げることは難しいのです。変化する方向がいろいろと違うので、それをいろんなものと組み合わせることで可能性を消していって、できるだけ矛盾のないものを考えることが大事なんです。

西村 なんだか推理小説みたいになってきましたね。しかも火山の中は一回も見せてもらえないという。

田中 はい、謎が謎を呼ぶ火山事件みたいな感じです。

西村 日本の火山研究についても少し教えてください。日本は火山国であるといわれますが、本当に火山は多いんですか?

田中 活火山に関して、全世界統一の基準はないので定義が難しいのですが、活火山は世界の中でも多い方ですね。

西村 研究者も多いのですか?

田中 火山学会の会員は、確か1,200人ぐらいだと思います。研究者だけではなく、ジオパークの関係者も含まれます。ちなみに先日行われた学会の発表者は、200人ぐらいでした。日本は気象庁が火山の監視にかなり力を入れていますが、どちらかというと行っているのはモニタリングで、他の研究機関としては産業技術総合研究所や防災科研技術研究所がありますが、火山に関わる人数比でいくと、おそらく大学の方が多いと思います。大学で観測研究に携わっている人数は40〜50人ぐらいかと。

西村 火山はたくさんあるけれど、火山研究の土台となる組織の体勢が日本の場合は大学が中心になっているということですね。海外はどうでしょう?

田中 例えばアメリカだと、USGSという地質調査所があり、火山の観測やこれまでの火山活動、今後の予測など数値計算や流体計算まで、多くの研究者を抱えて行っています。アメリカも環太平洋造山帯の上にある国で、アラスカやハワイなど火山が多いですからね。

西村 なるほど。その中で日本の火山研究の得意な分野はあるのでしょうか?

田中 日本人は、噴火していない火山を理解しようとする努力が、もしかしたら得意かもしれないですね。「30年ずっと噴火してないけれどデータは取ってあります」という火山が結構あって、それがいきなり噴火した時や、他所との比較の際に非常に重要なデータになります。

IAVCEIという国際学会の中日見学会で訪れたアメリカ、セントヘレンズでの1枚IAVCEIという国際学会の中日見学会で訪れたアメリカ、セントヘレンズでの1枚
間欠泉も火山の恵みの一つであり、2023年にIAVCEIで訪れたニュージーランドのロトルアにある間欠泉は15 m程度噴き上がる間欠泉も火山の恵みの一つであり、2023年にIAVCEIで訪れたニュージーランドのロトルアにある間欠泉は15 m程度噴き上がる

西村 先ほど観測と研究を分けられていましたが、観測は盛んに行われたりするのでしょうか?

田中 僕は「監視」と「研究」を分けて考えているのですが、観測は研究とセットで比較的盛んに行われています。監視に関しては、御嶽山の噴火でたくさんの方が亡くなられてしまったこともあって、気象庁が人員も増やしたりして、非常に力を入れています。

西村 監視と観測ではポイントが違うのですか?

田中 監視は24時間365日。そして、長期間に渡って同じクオリティのデータをため続けることが非常に重要ですよね。平時で観測していないと、異常があるかどうかわからないので。一方、観測は「これを知りたい」ということに対してデザインを組む。それがわかったら終わることもありますし、うまくいかなくて終わることもあります。

火山が我々にもたらすもの

西村 火山によく行かれるという視点から、火山がもたらす暮らしへの恩恵のお話も伺えたらと思います。

田中 先に温泉の話をしましたが、作物には大きな影響がありますね。火山灰が降り積もって水はけが良いからよくできる桜島大根、桜島小みかん、北海道では池田町や帯広で葡萄栽培が始まりワイン醸造が盛んになった、などがあります。あとは北海道では摩周湖や洞爺湖、支笏湖(しこつこ)といったカルデラ湖があります。火山があるから風光明媚な景色があって観光地があるとも言えます。

西村 なるほど。僕は滋賀県に住んでいるので湖が好きなんですが、洞爺湖は形も美しいですよね。確かに真ん中にとってつけたかのように島がある不思議な風景は、火山みたいな地殻変動があって初めて起こるっていうことですね。

田中 あとは阿寒湖のマリモも、やはり火山の産物です。阿寒湖の隣にある雄阿寒岳(おあかんだけ)が噴火して、湖に流れた溶岩流が冷えていびつな地形になって、そこをマリモが転がるから丸くなるとか。札幌で有名な札幌軟石という建材は支笏の火砕流だったり。十勝岳ができた時の火砕流で真っ平らな大地になって、そこが現在の美瑛(びえい)だったり、火山の恵みの上に我々は生きていると言っても過言ではないですね。

西村 すごいですね。火砕流で平野ができるんですね。

田中 大規模な火砕流は、全てを無に帰してしまうような形になると思いますね。

西村 火山がたくさんあるから北海道が平らである、というのはおもしろいですね。

田中 そうですね。だからこそ農業も発達したのだと思います。

西村 先ほど温泉の話が出ましたが、温泉と火山がセットだということは、温泉好きの日本人は、火山に対する付き合い方が他の国と違うのでしょうか。他の国の火山研究者もフィールドに出るのですか?

田中 火山研究者は少なくともフィールドが大好きだと思いますね。温泉も海外ではプールみたいに水着を着て入ったりします。日本人の研究者と海外の研究者で火山への付き合いが大きく違うことは、あまり感じたことはありません。

西村 おすすめの火山はありますか?

田中 国内だと、景色で感動したのは阿蘇のカルデラです。大観峰からカルデラの全部を見渡すことができるので、あのスケールの大きさはすごいですね。非常に感動的でした。その中に人が住んでることのすごさというか、ちょっと怖いなと思うくらいですが、それも含めてすごいなと。国外だとセントヘレンズ山。山体崩壊があって、ものすごく広範囲まで平らなんですよ。

インタビューを終えて

今回の取材を通して、改めて日本の活火山がどれぐらいあるのかを見てみました。その数は、111。意識していなかっただけで、実はあちこちに活火山が点在していました。火山や噴火は、つい防災という観点から見てしまいますが、純粋にダイナミックな火山が好きで、生き物のように捉える田中さんの視点に研究者としての魂を感じました。

(ライター:ヘメンディンガー綾 インタビュアー:西村勇哉 編集者:増村江利子)

この記事は、本学と連携し、株式会社エッセンスが制作しています。
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