自然共生サイト認定の札幌キャンパスで「生き物観察会」を実施

<写真>生き物観察会の様子(撮影:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川亜裕美)

都心にありながら豊かな自然に恵まれた札幌キャンパスは、美しい景観はもちろん、在来種を中心とした多様な動植物種から成る生態系も特色の1つです。札幌キャンパス約178haのうち特に良好な生態系が保全された126haは、国(環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣)により「自然共生サイト」に認定されています。

「自然共生サイト」は、民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られている区域を国が認定するものです。これにより、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する「30by30」という国際目標を達成することを目指しています。

生物多様性への関心が国際的に高まる中、札幌市は、昨年3月に「生物多様性さっぽろビジョン」を公開しました。札幌市では、2030年までに市内に5つの自然共生サイトの認定を目指していて、自然共生サイトを広く知ってもらうための取り組みも進めています。

「生物多様性さっぽろビジョン」の表紙「生物多様性さっぽろビジョン」の表紙

その一環として、9月20日(土)に札幌市主催の「生き物観察会」が札幌キャンパスで開催されました。案内役を務めたのは、長年、札幌キャンパスの生態環境調査に携わっている「㈱さっぽろ自然調査館」の丹羽真一さんです。北大からは、造園や生態学など学内の専門家が集まる「生態環境マネジメントワーキンググループ」の教員らが解説役として協力しました。

観察会には、札幌市に住む27名が参加しました。生物多様性に関心があるという大人に加え、生き物が大好きという子どもの姿もありました。今回の観察会は、北8条にある正門を起点に北18条エリアまでを散策。札幌キャンパスを彩る木々や、多くの人々が憩う「中央ローン」、太古の自然が残る「恵迪の森」など盛りだくさんの内容です。

観察会のルートを説明する丹羽さん観察会のルートを説明する丹羽さん

正門を入って右手、事務局の前にひときわ大きな木があります。1905年に植栽された「メアリーさんのハルニレ」と呼ばれる巨木です。新渡戸稲造の妻、メアリー夫人から贈られたことからその名がつきました。2004年の計測では直径124㎝でしたが、現在は145㎝だそう。「100年以上前に植えられた木が今も成長しているんです。ハルニレの成長力と、この土地に合っているという性質がよくわかります」と丹羽さんは説明します。

「メアリーさんのハルニレ」を見上げる参加者たち「メアリーさんのハルニレ」を見上げる参加者たち

ハルニレは札幌キャンパスで特に多く見られる樹木です。150年前の札幌農学校時代から現在まで残っている木もあり、中には、弱っているケースもあるといいます。農学研究院教授の愛甲哲也さんは、「ハルニレは札幌キャンパスを象徴する木です。本当は切りたくないけれど、弱った木は安全上やむを得ず伐採しなければなりません。ただ、それだと減る一方なので、私たちは農場で苗を育てて補植する取り組みを進めています。ハルニレが無くなってしまったところに苗を植え、再生を目指しています」と話し、「メアリーさんのハルニレ」の種から育てたという若木を紹介しました。

工学部近く、メインストリート沿いのハルニレは10年ほどの若木(右手前)工学部近く、メインストリート沿いのハルニレは10年ほどの若木(右手前)
参加者に丁寧に説明する愛甲教授参加者に丁寧に説明する愛甲教授

農学研究院講師の松島肇さんは、キャンパスの緑地がもたらす生態系サービスの研究を紹介しました。「生態系サービス」、つまり自然から私たちが受ける恩恵を定量化する試みです。「中央ローンという緑地が、私たちの生活にどれだけ役に立っているのだろうと考え、それを数値で表してみました。中央ローンには92本の樹木があって、年間約4.5tの酸素を生産し、約1.7tの二酸化炭素を吸っています。札幌キャンパス全体の樹木で見ると、非常に大まかですが、年間でエアコン400台分くらいの二酸化炭素を吸っている計算です」と、松島さんは説明します。

中央ローンを背に、生態系サービス評価に関する研究についてわかりやすく説明する松島講師中央ローンを背に、生態系サービス評価に関する研究についてわかりやすく説明する松島講師

中央ローンは、古くからの地形が維持され、大木がゆったりと並ぶ様子が特徴的です。大きな木々が芝生に涼しい陰を落とし、そこに人々が集います。松島さんは、「木が密にあるより、開けている森のほうがより多くの酸素を生産し、二酸化炭素を吸ってくれます。その上、人が集う場所にもなるんです。中央ローンのような緑地を残したり新しく作ることは、地球環境に貢献できて、well-beingの向上にもつながると考えます」と、その価値を説明しました。

熱心にメモをとる参加者熱心にメモをとる参加者

観察会の後半は、恵迪の森と遺跡庭園を巡りました。恵迪の森で見られる湿地林は、札幌市の中心部ではほぼ見られないそうで、こうした林における植生を調べる場所として貴重だといいます。

湿地林の特徴の1つである棒状の植物「トクサ」湿地林の特徴の1つである棒状の植物「トクサ」

遺跡庭園には、サクシュコトニ川の恵みを生かして人が住んでいたという住居跡も見られます。山の中のように緑が茂る中、参加者たちは、野鳥や小動物、花や樹木の観察を楽しみながら歩きました。

様々な植物を観察しながら遺跡庭園を歩く様々な植物を観察しながら遺跡庭園を歩く

札幌市中央区から参加したという夫婦は、「専門家の解説が聞けて、歩きながらたくさんの質問もできてとても楽しかったです。こんな身近なところでフィールドワークのような体験ができるのは魅力的ですね」と話しました。また、家族全員生き物好きという家族は、「札幌キャンパスには家族でよく散歩に来ていますが、今日初めて知ったことがたくさんありました。環境を維持するために、自然のままの場所と人の手が入っている場所があるというのが興味深かったです」と感想を話しました。

札幌キャンパスの美しい景観の中にある豊かな生態系と、それを維持する取り組みに触れた観察会でした。

【文・写真:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 長谷川 亜裕美】