札幌農学校から150年 ― Be ambitious!北大「知のフロンティア」が拓く食の未来 北海道大学創基150周年記念シンポジウムin東京を開催

<写真>シンポジウム会場の様子

8月22日、東京都千代田区の「ステーションコンファレンス東京」において、創基150周年記念シンポジウム「札幌農学校から150年~Be ambitious!北大『知のフロンティア』が拓く食の未来~」が開かれました。会場には多くの参加者が集まり、北海道大学の研究者らが「食」をテーマにそれぞれの研究成果を紹介しました。

開会のあいさつをする寳金清博総長開会のあいさつをする寳金清博総長

開会式で寳金清博総長は、札幌農学校の開校から150周年という節目を振り返りながら、「クラーク先生の最大のミッションが寒冷地農業の確立だったように、北大にとって食というテーマは代表的なものです。今日は北大が知のフロンティアとして積み重ねてきた、食に関する多様な研究をご覧いただきたいと思います」とあいさつしました。

水産学部時代の思い出を語る気象キャスターの斉田季実治さん(左)と寳金総長水産学部時代の思い出を語る気象キャスターの斉田季実治さん(左)と寳金総長

続いて、オープニングトークでは、寳金総長と水産学部出身で気象キャスターの斉田季実治さんが登壇しました。斉田さんは在学中に気象予報士の資格を取得し、現在はNHKニュースウオッチ9の気象キャスターとして知られる一方、気象防災アドバイザーや防災士としても活躍しています。斉田さんは「熊本地震や千葉豪雨など、名前がつくような大きな災害が今年は立て続けにありました。災害は起きる場所や季節によって、被害の大きさや対応の難しさがまったく違うと感じます。食や防災という社会課題に対して、北大は総合大学として、理系・文系の枠を超えて重要な役割を果たしていると思います」と話しました。

オープニングトークの後は、本学の研究者による講演会が行われ、食を「生み出す」研究と「支える・守る」研究が紹介されました。

講演① 後藤貴文教授「環境と共生しながら科学技術と日本の草で美味な牛肉を生産する技術開発を目指して」

北方生物圏フィールド科学センターの後藤貴文教授北方生物圏フィールド科学センターの後藤貴文教授

最初の講演は、北方生物圏フィールド科学センターの後藤貴文教授が登壇しました。動物生産科学が専門の後藤教授は、和牛の生産性向上と環境負荷の低減を両立させる持続可能な畜産研究に取り組んでいます。

後藤教授は和牛の生産性向上と環境負荷の低減を両立し、持続可能な畜産研究を目指す後藤教授は和牛の生産性向上と環境負荷の低減を両立し、持続可能な畜産研究を目指す

後藤教授は、「近い将来、世界的な人口増加などの影響で、タンパク質の供給が足りなくなる可能性があり、肉や家畜用のえさが輸入できなくなれば、簡単にスーパーで肉が買えなくなるかもしれません」と解説し、「国内の耕作放棄地や離島などの草資源を使った研究を続け、輸入飼料に頼らず、農家さんが安心して和牛を生産できるシステムに貢献したいです」と話しました。

講演② 平松尚志教授「水産は北から~水産学のはじまり、水産学部発の増養殖研究のあゆみと展望~」

北方生物圏フィールド科学センターの平松尚志教授北方生物圏フィールド科学センターの平松尚志教授

続いて登壇したのは、北方生物圏フィールド科学センターの平松尚志教授です。平松教授は魚類の生理学や増養殖研究を専門とし、サケやウナギなどの種苗生産、持続可能な養殖技術の発展に取り組んできました。講演では、水産学部の養殖研究のあゆみを紹介するとともに、現在取り組んでいる函館マリカルチャープロジェクトについて解説しました。

「函館マリカルチャープロジェクト」を紹介する平松教授「函館マリカルチャープロジェクト」を紹介する平松教授

平松教授は「水産科学は海の恵みを人に結びつける総合科学です。養殖産業は裾野が広く、人材を育成し、地域に根付いてもらうことを目指しています」と話しました。

講演③ 曾根輝雄教授「農・食と社会をつなげる融合研究:ワインから考える地域課題解決」

農学研究院の曾根輝雄教授農学研究院の曾根輝雄教授

3番目の講演は、北海道ワイン教育研究センター長を務める、農学研究院の曾根輝雄教授が登壇しました。曾根教授は微生物学を専門とし、植物病害の研究からワイン醸造まで幅広く手がけています。講演では、ワインを切り口に、農業・観光・地域社会をつなぐ北大の融合研究が紹介されました。

「ワインの力を、北海道の地域や経済の活性に活かしたい」と話す曾根教授「ワインの力を、北海道の地域や経済の活性に活かしたい」と話す曾根教授

曾根教授は「ワインは水を加えず作るため、その土地の個性(テロワール)が出やすいお酒です。ワインの力を、北海道の地域や経済を活性化させる『サステナブルテロワール』として活かしたいと考えています」と話しました。

講演④ 比良徹教授「農産物等由来食品が満腹感を与えるメカニズム―食事成分による肥満・糖尿病の予防へ―」

農学研究院の比良徹教授農学研究院の比良徹教授

4番目の講演は、農学研究院の比良徹教授が登壇しました。比良教授は、食べたものが腸の細胞に認識された時に分泌され、血糖値を正常化したり満腹感を誘導したりする「GLP-1」というホルモンに着目。GLP-1の分泌をうまくコントロールできる成分を食品や農作物なろから探す基礎研究に取り組んでいることを紹介しました。

血糖値を正常化し満腹感を誘導する「GLP-1」ホルモンについて説明する比良教授血糖値を正常化し満腹感を誘導する「GLP-1」ホルモンについて説明する比良教授

比良教授は「食品成分が満腹感や血糖調節にどのように影響するかを調べ、健康維持や肥満・糖尿病の予防に役立てていきたいです」と話しました。

講演⑤ 野村理恵准教授「北海道農村の『生活と生産』をつなぎ直す―建築計画からのアプローチ」

工学研究院の野村理恵准教授工学研究院の野村理恵准教授

最後の講演は、工学研究院の野村理恵准教授が登壇しました。野村准教授は建築計画学や農村計画を専門とし、農村における暮らしや生業、地域社会のあり方を研究しています。講演では、北海道の農村を例に、「生活」と「生産」を結び直し、持続可能な地域づくりにつなげる建築計画のアプローチが紹介されました。

農村における暮らしや生業、地域社会のあり方について説明する野村准教授農村における暮らしや生業、地域社会のあり方について説明する野村准教授

野村准教授は「美唄市の旧屯田兵村では、住宅が並んでいるからこそ、農地の貸し借りをしても集落を絶やさず維持できていました。生産と生活を切り離さず、地域にどんな循環を促せるかという視点で、今年から和牛プロジェクトのモデルファーム構想にも関わっています」と話しました。

パネルディスカッション「北大『知のフロンティア』が拓く食の未来」

パネルディスカッションの様子パネルディスカッションの様子

5つの講演の後には、パネルディスカッションが行われました。瀬戸口剛理事・副学長がモデレーターを務め、パネラーには斉田さん、後藤教授、平松教授、曾根教授、比良教授、野村准教授の6名が登壇し、それぞれの研究分野を横断した議論が交わされました。

瀬戸口剛理事・副学長瀬戸口剛理事・副学長

瀬戸口理事は「AIは分析は得意ですが、まず研究者がどのようなオリジナルのデータをとるかということが重要になってくると感じます。北大がフィールド研究、融合研究で蓄積してきたデータを、数十年かけて実装していく段階に入ってきていると思います」と話し、「研究者だけではなく、学生が、『私たちが日本、世界の未来をつくる最先端にいる』という生きがいを持てるような環境をこれからも提供していきたいと思っています」と意気込みを語りました。

なお、会場の同フロアでは、シンポジウムに合わせて展示イベントも開催されました。

北大の農場にあるトラクターを東京の会場から遠隔操作する「スマート農業」のデモンストレーションの様子北大の農場にあるトラクターを東京の会場から遠隔操作する「スマート農業」のデモンストレーションの様子
北大牛乳の試飲やソフトクリームの試食コーナー北大牛乳の試飲やソフトクリームの試食コーナー

スマート農業体験展示(ロボットトラクタ遠隔操作)、サッポロビールとの150周年記念展示、北海道大学ワイン教育研究センターによるオリジナルワイン試飲、北大マルシェ展示(牛乳試飲・アイスクリーム試食)、函館マリカルチャープロジェクト展示(昆布水試飲)、北大ブランド商品展示(純米吟醸「北の閃き」試飲など)が並び、来場者は講演の合間に北大の研究成果を「味わう」体験を楽しみました

水産学部が完全養殖に携わる「函館真昆布」を紹介するコーナー水産学部が完全養殖に携わる「函館真昆布」を紹介するコーナー

北海道大学が札幌農学校時代から150年間積み重ねてきた、「食」をめぐる研究の厚みと広がりをあらためて印象づけるシンポジウムとなりました。

【文・写真:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 齋藤有香 
取材協力:研究推進部 研究振興企画課】