同窓生を迎えるひとつの屋根 ―医学部百年記念館―

札幌キャンパスを南北に貫くメインストリート沿いに建つ、和を感じさせる大きな屋根が印象的な木造建築。2019年9月20日に竣工した「医学部百年記念館」です。

医学部百年記念館 南側外観(写真提供:小篠准教授) 医学部百年記念館 南側外観(写真提供:小篠准教授)

エントランスから一歩足を踏み入れると、メインストリートに平行して開放的な吹抜けの空間が広がり、まるで木立のように高い柱が等間隔で並んでいます。温もりを感じる質感が魅力の木造建築は、近年、環境保全などの観点からも注目され、建築界では世界的なトレンドとなっているそうです。

本記念館は、木材の良さの普及と利用用途の拡大に貢献する作品を表彰する「23回 木材活用コンクール 優秀賞((一社)全国木材組合連合会会長賞)」を受賞しています。

開放的なエントランスホールが人々を迎え入れる 開放的なエントランスホールが人々を迎え入れる

本記念館のデザインと設計を担当したのは、工学研究院の複数の学生グループと教員(建築デザイン学研究室、都市地域デザイン学研究室)、外部の設計事務所、構造設計家、照明デザイナーら。多様な専門家が協働して基本計画から実施設計をまとめました。

2019年10月18日に行われた建築関係者向け内覧会で、この記念館の設計に携わった工学研究院の小篠隆生 准教授、小澤丈夫 教授、そしてデザイン案を提案した学生グループの一人、林 泰佑さんにお話を伺いました。


■監修を担当:小篠隆生 准教授(工学研究院)

小篠隆生 准教授(工学研究院)小篠隆生 准教授(工学研究院)

―本記念館のデザインコンセプトを聞かせてください。

小篠:コンセプトは「同窓生をはじめ多くの皆さんを受け入れるためのひとつの屋根」です。医学部(百年記念事業実行委員会)から依頼をいただいたあと、まずは入念な文献調査を行いました。歴史を紐解いてみると、1920年代の創設期の医学部や北大病院には、様々なかたちの屋根を持ったユニークな木造建築があったことに気づきました。また、数十年前の同窓会誌などから、医学部が同窓会を非常に大事にしていることが伝わってきました。記念館には、こうした人々の連綿としたつながりを次の100年に受け継ぐ使命があります。そのアイコンとしての建築に何が必要か考えたときに、「ひとつの屋根」というコンセプトが生まれました。そして、およそ90年ぶりに北大キャンパスに純木造の建物が復活しました。

1920年代の医学部の建物。様々なかたちの屋根をもった洋風木造建築群があった(写真提供:北海道大学 大学文書館) 1920年代の医学部の建物。様々なかたちの屋根をもった洋風木造建築群があった
(写真提供:北海道大学 大学文書館)

ひとつの大きな屋根がデザインコンセプト ひとつの大きな屋根がデザインコンセプト

―たしかに日本風の大きな屋根が特徴的ですね

小篠:その大きくて重い屋根を木造でどのように支えるかが、建築的には大きな課題となりました。そこで、屋根を支える柱の最上部に、小さな部材を縦横に組み合わせて設置し、屋根との接点を増やして荷重を分散させることで、強度を持たせています。昔からお寺や神社に用いられてきた「斗栱(ときょう)」という伝統的な構法からインスピレーションを受けました。東大寺南大門などにもこの構法が使われています。

  • 記念館の主な材料は、住宅用に一般流通している120mm幅の北海道産カラマツ集成材。4本束ねて柱にしている
  • 屋根を支える仕組みは「斗栱(ときょう)」という伝統的な構法をモチーフにしている

(左)記念館の主な材料は、住宅用に一般流通している120mm幅の北海道産カラマツ集成材。4本束ねて柱にしている
(右)屋根を支える仕組みは「斗栱(ときょう)」という伝統的な構法をモチーフにしている

―竣工した時の感想を聞かせてください。

小篠:苦労があった分、本当に嬉しかったです。建築は設計図面が引けて終わりではありません。それが本当にできるのかという現場での戦いがあります。多くの人が関わり、知恵を出しあってこの記念館が完成したので、愛され続けることを願っています。木造建築は呼吸しているので、眠っているのではなく、絶えず使われるような状態になっていることが大事だと思っています。

2階ホール。間接照明や家具などにもこだわりがみられる 2階ホール。間接照明や家具などにもこだわりがみられる

■デザイン案を検討した学生の一人: 林 泰佑さん(取材当時、修士課程2年)

デザイン案を検討した学生の一人: 林 泰佑さん(取材当時、修士課程2年)林 泰佑さん(取材当時、修士課程2年)

―デザイン案を検討していく中で、苦労したことはありましたか?

林:設計案を決めるコンペでは、医学部の先生たちにどのように説明すれば、想いを持って選んでいただけるのか、ストーリーを組み立てるのが難しかったです。また、屋根を支える構造は、模型をつくっていくつものアイディアを出し合い、構造デザイナーの方と実現可能かどうか検討を重ねました。

―完成した記念館を初めて見た時の感想を聞かせてください

林: 自分たちが考えたデザインが実現したことに驚きました。社会に出る前に建築が形になるのを目の当たりにできて良かったです。伝統的な技術に最先端の技術を組み合わせて新しい木造空間を生み出すことを目指して、デザイン案をみんなでつくりあげました。色々な人達にこの建物を知っていただき、つかっていただき、新たな賑わいができればと思っています。


■監修を担当:小澤丈夫 教授(工学研究院)

監修を担当:小澤丈夫 教授(工学研究院)小澤丈夫 教授(工学研究院)

―竣工した感想を聞かせてください

小澤:学生を巻き込んで、北大キャンパスの仕事として建物を設計するのは大変でしたが、医学部の皆さんに喜んでいただけたのが、何より嬉しかったです。建物をつくるというのは、個人であっても、会社であっても、どんな組織であっても、その人生、歴史のハイライトだと思います。そこに立ち会えるのがこの仕事をしていて幸せを感じる瞬間ですね。

―この建物にどのような役割を担っていってほしいですか?

小澤:医学部百年記念館ですので、医学部同窓生、教職員、学生に活用していただき医学の発展に貢献していってほしいと思っています。またキャンパス内の施設のひとつであることを考えると、医学部以外の方にも景観として良いと感じていただき、将来にわたってキャンパスの魅力を高めていくきっかけとなることを願っています。

小篠准教授(左)と小澤教授(右) 小篠准教授(左)と小澤教授(右)

西側外観。メインストリートに面してガラススクリーンを設置。通りを行き来する人々と記念館との活動がリンクすることが狙い(写真提供:小篠准教授) 西側外観。メインストリートに面してガラススクリーンを設置。
通りを行き来する人々と記念館との活動がリンクすることが狙い(写真提供:小篠准教授)

北大キャンパスにまたひとつ美しい建物が誕生しました。これから長い歴史を刻んでいくなかで、どのように活用され、どのように風景に溶け込んでいくのでしょうか。創刊95周年を迎えた建築専門誌「新建築」2020年4月号(新建築社)でも写真、図面、キャンパス整備計画等とともに10ページにわたって詳細に紹介されていますので、ぜひご覧ください。

(文:総務企画部広報課 学術国際広報担当 川本 真奈美 写真:同担当 菊池 優)

 

※本記念館は医学部創立100周年記念事業の一環として寄附金によって建設されました。北海道大学医学部及び関係部局が主催する医学研究・教育に関する各種活動や、医学部同窓生の交流の場としてご利用いただけます。詳細についてはホームページをご覧ください。

北海道大学 医学部百年記念館