【Academic Fantasista 2022】札幌開成SSH、北大CoSMOSとの連携で「課題研究スタートアップセミナー2022」を開催

10月11日(火)、市立札幌開成中等教育学校のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業、本学の技術支援・設備共用コアステーション(CoSMOS)との連携で「課題研究スタートアップセミナー2022」が開催され、アカデミックファンタジスタから4名、CoSMOSから3名の計7名が講義しました。本セミナーは、札幌開成中等教育学校SSHの3、4年生が課題研究に取り組むにあたり、最新の研究研究に関する話を聴講するとともに、研究者たちから研究やテーマについてアドバイスをもらう機会として実施しています。アカデミックファンタジスタでは、昨年度からこのセミナーに参加協力しています。

「健康に暮らすための室内環境とは」保健科学研究院 教授 池田 敦子

多くの人にとって、1日のうちで最も長い時間を過ごし、身近な環境である自宅の室内。池田さんは、札幌市を中心に全国の自宅訪問等によって調査した結果をもとに、自宅環境と居住者の健康との関係について解説しました。さらに、換気や掃除、生活習慣の改善など、アレルギーやシックハウス症候群の予防のために、私たちができることについて紹介しました。講義を聞いた生徒からは、「空気中には思っている以上に化学物質が多く含まれていて驚いた」、「普段あまり目を向ける機会がない空気の重要さに気付くことができた」など、環境に対する関心の他に、実験やデータの収集方法について興味深かった、プレゼンがとても分かりやすく興味を持てたなど、大学の研究や講義に興味を持ったとの感想も寄せられました。

住宅環境の重要性について解説する池田教授(撮影:広報課 広報・渉外担当 齋藤麻衣)住宅環境の重要性について解説する池田教授(撮影:広報課 広報・渉外担当 齋藤麻衣)

「環境と子どもの発達―20年間にわたる親子の長期追跡調査より―」
環境健康科学研究教育センター 特任講師  山﨑 圭子

心理学が専門の山崎さんは、大規模なコーホート研究(※)プロジェクト「環境と子どもの健康に関する研究(北海道スタディ)」で、様々な分野の研究者たちとともに調査・研究を続けています。北海道スタディは、胎児期から赤ちゃんが成人するまでの、環境と健康の関係性を明らかにすることを目的としています。講義では、胎児期のダイオキシンへのばく露や、身のまわりの無線環境と、子どもの認知能力や神経発達との関係など、現在進行中の研究について紹介しました。また、調査で得られたデータについては、慎重に解釈する必要があることも伝えました。参加した生徒たちからは、「コーホートという研究手法が非常に興味深かった」、「胎内での環境が子どもの健康に関係することを知り、驚いた」などの意見がありました。

※コーホート研究:同じ地域に住んでいる、同じ年に生まれたなど、共通の特性を持つ集団を追跡し、その集団の疾病の発生や、健康状態が変化などを観察して、各種要因との関連を明らかにしようとする研究

コーホート研究について解説する山﨑特任講師(撮影:広報課 学術国際広報担当 川本 真奈美)コーホート研究について解説する山﨑特任講師(撮影:広報課 学術国際広報担当 川本 真奈美)

「越境大気汚染を通じて地球環境を考える!」北極域研究センター 准教授 安成 哲平

大気汚染に影響を与える大気エアロゾルの研究を続ける北極域研究センターの安成さん。約6年勤務したNASAでは、スーパーコンピューターを使用して地球全体を計算するNASAの数値モデルに、大気エアロゾルによる積雪汚染モデルを開発・導入しました。その後は、北大で大気汚染や大気エアロゾルの研究を進め、近年夏季に多発するシベリア・亜寒帯北米(アラスカ・カナダ)の森林火災と、西欧熱波を同時に発生させうる、高気圧性循環(気候)パターンを特定しました。そして、その研究で、北極域のPM2.5が増加する時には(2003-2017年)、夏季北極域とその周辺の森林火災由来の大気エアロゾルの増加が主な原因であることも、初めて明らかにしました。講義では、森林火災と大気汚染の正確な予測、発生状況の把握が重要であると話し、自身の研究グループで開発した寒冷地仕様のPM2.5測定装置を実測しながら紹介しました。そして、森林火災による越境大気汚染が札幌へ与える影響など、大気汚染データへの理解と知識を深めてほしいと話しました。楽しめる選択や、経験したことがなくても積極的に行動することの大切さを生徒たちへ伝え、生徒からは「積極性とどんなことにも全力で取り組む姿勢を大切にしたい」、「すごく興味深く、楽しんで聞けた」などの感想が寄せられました。

大気エアロゾルについて説明する安成准教授(撮影:広報課 学術国際広報担当:Aprilia Agatha Gunawan)大気エアロゾルについて説明する安成准教授(撮影:広報課 学術国際広報担当 Aprilia Agatha Gunawan)

「折紙工学の最前線-医療への応用-」高等教育推進機構 特任准教授 繁富(栗林)香織

折り紙の構造を応用した医療機器の開発に取り組み、現在は、細胞を折るCell Origamiの研究を進めている繁富さんは、平面でしか培養されない細胞を折りたたむことで立体の細胞にし、創薬開発、再生医療に活かす研究を続けています。講義では海外での留学経験や生活も紹介し、そこで出会った人々との交流や自身の活動、研究について、いかに自らが楽しみ努力をしたか、写真を交えて紹介しました。札幌から社会に貢献できる新しい技術を発表したい、と語る繁富さん。講義を聞いた生徒からは「折り紙がいろんな分野に広がることが分かった」「チャンスを掴むなど人生や進路のアドバイスも話していただき、今後に活かしていきたいと思った」などの声が寄せられ、研究内容だけではなく、海外留学に対する関心も高まりました。

自身の留学経験とセル細胞について説明する繁富(栗林)特任准教授(撮影:広報課 学術国際広報担当 長尾美歩)自身の留学経験とセル細胞について説明する繁富(栗林)特任准教授(撮影:広報課 学術国際広報担当 長尾美歩)

「災害に備えて、情報を活かそう」農学研究院/CoSMOS副ステーション長 井上 京 教授(CoSMOS)

農村地域の土地と水の管理に関する研究を行っている井上さんは、大学では水文学の講義を担当しています。雨の話題からはじまり、日々の気象情報に込められた意図を説明しながら、災害への備えと様々な情報活用の重要さについて講義を行いました。生徒からは「警戒を始める、災害に備える、という2つの独自な基準を知ることができた」「情報を手に入れて解釈する力をつけるということをこの講演を通して意識していかなければならないと再認識した」など、たくさんの気づきの声が寄せられました。また、話し方や質問への対応方法など、プレゼン方法が勉強になったとの声もあり、大学への興味・関心も深まった講義でした。

気象情報に込められた意図を説明する井上教授(提供:CoSMOS)気象情報に込められた意図を説明する井上教授(提供:CoSMOS)

「鉱山工学×情報工学=スマートマイニング-VR技術を活用した教育研究支援」
工学研究院 大塚 尚広 技術専門職員(CoSMOS)

現在、工学研究院環境循環システム部門の川村洋平教授のもとでVRを使った教育研究支援をおこなっている大塚さん。鉱山工学に情報工学をあわせたスマートマイニングの研究紹介とVR技術活用について、ヘッドマウントディスプレイによるVR体験を交えながら講義を行いました。Society 5.0についての丁寧な説明もあり、生徒からは「最新の技術と産業、工業が組み合わさってさらに社会が発展してきていることをVR体験からも実感できてとても学びの多い講義だった」「現実や社会と繋がった考え方が面白かった。仮想と現実を相互に繋ぐことで様々な可能性が生まれているのだなと思い、そういった進路も考えてみたいと感じた」などの声が寄せられました。

VRを使った教育研究支援について紹介する大塚技術専門職員(提供:CoSMOS)VRを使った教育研究支援について紹介する大塚技術専門職員(提供:CoSMOS)

「放射線、放射能とみなさんの生活」アイソトープ総合センター 阿保 憲史 技術専門職員 (CoSMOS)

放射線施設の相談役として機能するアイソトープ総合センターで放射線管理や取り扱い教育活動を行う阿保さん。放射線・放射能の本質について語り、正しく怖がることを説いた前半と、放射線・放射能を用いた研究紹介とともに、今後の研究の進め方や考え方について学ぶ時間となった後半。講義を受けた生徒より「基礎の知識から丁寧に教えてくださったおかげで、不必要に放射線や放射能を怖がることは無くなった」「実験についての方向性を決める上で、『なぜ・どのように』を意識しつつ、『新規性』を見据えた活動を行なっていく事が重要」など、たくさんの反響がありました。

放射線・放射能について解説する阿保技術専門職員(提供:CoSMOS)放射線・放射能について解説する阿保技術専門職員(提供:CoSMOS)

日  時:10月11日(火) 13:10-14:50
(1時間程度の講義と、グループ研究に取り組む生徒達へのアドバイスタイム)
会  場:市立札幌開成中等教育学校
参加生徒:3-4年生 計320名程度

(社会共創部広報課、技術支援・設備共用コアステーション)

アカデミックファンタジスタとは?

北海道大学の研究者が知の最前線を出張講義や現場体験を通して高校生などに伝える事業、「アカデミックファンタジスタ(Academic Fantasista)」。内閣府が推進する「国民との科学・技術対話」の一環として、北海道新聞社の協力のもと2012年から継続的に実施しています。今年度はコロナ対策を十分に行って、札幌近郊の高校等を対象に22名の教員が講義を実施しています。22年度の参加教員はこちら

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