<写真>理学部オープンキャンパス 生物科学科(高分子)の模擬実験の様子
令和6年度オープンキャンパスが、8月4日(日)、5日(月)の2日間、札幌・函館の両キャンパスで開かれました。1日目は小学生から参加できる「自由参加プログラム」が、2日目には「高校生限定プログラム」が実施され、学部などが企画した説明会、模擬講義やゼミ、実習や実験、見学会、個別相談会などのプログラムに多くの高校生たちが参加しました。開催当日は保護者なども含め、大勢の参加者でキャンパスが賑わいました。オープンキャンパスの様子を、3回にわたってお伝えします。
オープンキャンパス初日の8月4日(日)、理学部では、理学部長、各学科長、在学生による学部・学科紹介、研究者による講演会、在学生による相談会・模擬実験などが行われました。 そのなかで、理学研究院 生物科学部門 教授の黒岩麻里(くろいわ あさと)さんは、「Yの悲劇―消えゆくY染色体の運命」と題して講演。会場はほぼ満員で、約90名の参加者が熱心に聞き入りました。
黒岩さんは、生物の性決定と性染色体について研究しています。哺乳類では一般的に、性染色体がXXだとメス(女性)に、XYだとオス(男性)になり、Y染色体が持っているSRY遺伝子により性が決定しています。X染色体は2本あるので、遺伝子変異が起きても修復されますが、Y染色体は1本しかないので変異が起きた時に修復できず、退化の一途をたどっていると黒岩さんは話します。ヒトのY染色体は、数百万年後には、消滅してしまうと予測している研究者もいるそうです。では、Y染色体が消えてしまったら、男性が消滅し、人類も滅亡にむかってしまうのでしょうか。
「将来、ヒトのY染色体が消えてしまっても、男性がいなくならない進化があるかもしれない」と、黒岩さんは指摘します。希少な日本固有種アマミトゲネズミのように、Y染色体もSRY遺伝子ももたないのにオスが生まれる哺乳類は、ほんの少数ですが存在しています。黒岩さんの研究グループは、このアマミトゲネズミの染色体にオスのみが持つDNAの重複配列を発見し、世界で初めてSRY遺伝子なしにオスが生まれる仕組みを解明しました。2022年11月に論文発表したこの研究成果は、世界的に大変インパクトの大きいものでした。こうした研究結果から黒岩さんは、「様々な生物を研究することで、生命の謎を解明できることがある」と伝えました。
高校生のとき、生物の授業に魅力を感じ、高校3年生で思いきって文系志望から理系志望に変更したという黒岩さん。「何かやりたいことがあったら、怖がらずに挑戦して欲しい」と参加者たちにメッセージを送りました。
Y染色体と性にまつわる最新研究については、黒岩さんの著書「『Y』の悲劇 男たちが直面するY染色体消滅の真実」(朝日新聞出版)でも紹介されていますので、興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
一番前の席で聴講したという高校2年生の皆川結衣さんは、「以前、北大祭で来たときに黒岩先生の新聞記事が掲示してあったのを見てとても気になっていたので、この講演に参加しました。Y染色体が消えたら、人類も消滅してしまうと思っていたので、別の進化の道があると知って驚きました。北大キャンパスは、リスなどの野生生物にも出会えるので、生物学科を志望している自分としては魅力的な環境です」と、進学先を考えるうえで参考になったと話しました。
各学科の在学生による個別相談・模擬実験のコーナーでは、高校生たちが北大生と交流しながら、模擬実験に参加する姿が見られました。 中学1年生の山口夕那さんは、「もともと理学や鉱物に興味があったので参加しました。大学では自分がこれまで習ってきたことより、ずっとずっと難しいことを研究しているのだと実感できました。講演や模擬実験に参加してみて、大学で研究や実験をしてみたい気持ちがますます高まりました」と意欲的に語ってくれました。
オープンキャンパス期間中は、参加者の家族なども含めて大変な賑わいを見せた北大キャンパス。理学部のオープンキャンパスには、2日間で延べ1,478名が参加しました。
【文・写真:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門 川本 真奈美】