研究者へのリスペクトを忘れずに、研究を社会につなげたい-インターンシップ体験レポート

北海道大学獣医学部5年(当時) 馬杉実里

北海道大学広報課では、学生の人材育成と充実した情報発信のために、広報特派員制度(広報インターンシップ)を設けています。この制度を利用して2021年11月から5ヶ月間、学術国際広報担当(研究広報)のインターンに参加した馬杉実里さん(当時、獣医学部5年)の体験レポートをお届けします。インターンを通じてどのような経験が得られたのでしょうか。

修了証を手にする馬杉実里さん(写真中央)と広報インターンシップを担当した川本真奈美 学術専門職(左)、菊池洋美 広報課長(右)(撮影:広報課 広報・渉外担当 斎藤麻衣)修了証を手にする馬杉実里さん(写真中央)と広報インターンシップを担当した川本真奈美 学術専門職(左)、菊池洋美 広報課長(右)(撮影:広報課 広報・渉外担当 齋藤麻衣)

インターンシップ体験レポート

参加のきっかけ

私は昨年4月に獣医学部の5年になり、本格的に研究活動を開始しました。それにあたって論文を読んだり、自分の研究テーマについての文書を作成したりする中で、学術的な内容をわかりやすく伝える難しさを実感していました。それと同時に、研究結果を伝える対象が専門性を持たない一般の方であった場合、理解してもらえるよう的確に伝えるのはより難しいだろうと考え、サイエンスコミュニケーションに興味を持っていました。ちょうどそのとき、研究室の先輩から広報課のインターンシップでプレスリリースの作成を手伝ったというお話を伺いました。これこそ自分がサイエンスコミュニケーションに携わるチャンスなのではないかと思い、研究広報のインターンシップに参加しました。
大学の研究広報活動というと、私がイメージするものは「パンフレット・Webサイトを通じた大学で行われている研究に関する情報提供」と「専門性の高いセミナーの開催」の2点でした。今回のインターンシップではこの両方に対して、準備から終了後の活動まで関わらせていただきました。

リーフレットのデザイン

インターンシップに参加するにあたって行った面談の際に、デザインに興味があるとお話をさせていただいたところ、スキルアップセミナーのリーフレットデザインを1から作成する機会を頂きました。当初、大学全体規模で実施されるセミナー等のデザイン性のあるリーフレットは、デザイナーの方に外部発注して作成していると思っていたため、広報の仕事であることを知って驚きました。
ソフトを使用しながらデザインを考えるのは初めての経験でした。文字ではなく視覚的に訴える形でのアプローチも、多くの人の興味を引くためのきっかけになるという点で重要だという意識を持って取り組みました。イメージに合う画像を探したり、色・配置・フォントなどを調整したり、一目見ただけで情報が伝わるように細部まで妥協せずに仕上げることが出来ました。
このセミナーの申込人数が過去最高の300名以上だったという話を伺い、内容が魅力的であったことが最大の要因であるにしても、それを多くの人に伝える手助けが出来たのではないかと思い、とても嬉しかったです。広報という仕事のやりがいを体感できた瞬間でした。

馬杉さんがインターンシップ中に作成したセミナーリーフレット馬杉さんがインターンシップ中に作成したセミナーリーフレット

■ リーフレットをデザインしたセミナー
研究者のためのスキルアップセミナー⑮資料作りに役立つ『伝わるデザインとレイアウト』

アカデミックファンタジスタ事業

アカデミックファンタジスタとは、北海道大学の研究者が最前線の研究について高校生に伝える事業で、北海道新聞社さんと協力して2012年から継続的に実施しています。本来は出張講義や現場体験を実施しますが、今回はコロナ禍ということでオンライン講義を行いました。
非常に印象的だったのは、参加した高校生からのアンケート回答です。講義に聞き入る姿勢は想像以上で、中には今後の進路の参考にしたいとまで書いてくれる生徒もいました。そこで、一般に生活していて関わることのない研究活動について、対外的に発信することで生まれる学術的な出会いの素晴らしさを、改めて実感しました。広報活動は大学側にとってのPRという目的はもちろん、受け取った側の生活に新たな実りを生み出すのだと感じました。私も実際に講義に参加させていただいたのですが、普段知り得ない分野のお話を研究者の方から直々に伺う貴重な体験となりました。
講義の様子は北海道大学のFacebookやホームページに随時更新されています。私もインターンシップ中に講義レポートを執筆しました。簡潔に内容を伝えることに加え、初めて見た人に興味を持ってもらえるような写真を含めた構成を考え、推敲を重ねました。

■ インターン中に執筆した講義レポート
「中国文学と異性装」北海高校へ向けてオンライン講義

講義レポート執筆中(撮影:広報課 広報・渉外担当 斎藤麻衣)講義レポート執筆中(撮影:広報課 広報・渉外担当 齋藤麻衣)

サイエンスライティング

学術国際広報担当では、リサーチタイムズというウェブメディアを通して北海道大学の研究を紹介しています。今回は獣医学以外の観点から動物についての研究をさらに知りたいという気持ちから、私自身が特に興味のある野鳥について研究している地球環境科学研究院の先崎理之(せんざき まさゆき)助教にインタビューをしてウェブ記事を作成しました。
実際に携わるまで、インタビュー記事は取材で聞いたことをそのまま書くだけだと考えていました。しかし実際は、誰に対してどのようなメッセージを届けるためのインタビューなのか、という目的意識を持って質問を考えるところから行うものであり、記事の表現方法もそれに応じて変化させていくものだと知りました。文書をわかりやすく、インパクトを残しつつメッセージ性のあるものにまとめる作業は思った以上に難しく、何度も添削・修正を繰り返しました。この一連の活動を通して、1つの取材記事を書くためには事前準備から文書作成・写真選定まで想像以上の労力がかけられていることを学び、情報発信を行う側としての責任感をより一層強く感じました。

■ インターン中に執筆したインタビュー記事
好奇心を追求して生態保全の研究へ

取材・撮影の様子取材・撮影の様子

最後に

私はこのインターンシップで、研究広報の仕事や要点を知り、そのスキルを習得する足掛かりを掴めたように思います。
今回実際に取り組んだのは一部の仕事にすぎませんが、どれも共通して「より多くの人に興味をもってもらうこと」「より簡潔かつ的確に伝えること」が主軸となっていることを実感しました。そして大前提として取材・講義等を依頼する先生に対するリスペクトを持ち、最善の伝え方を試行錯誤しながら仕事していることがよくわかりました。
研究広報を担うにあたり、求められるスキルは多岐に渡ります。特に学術的な内容を大衆的わかりやすさ・面白さとのバランスを考えながら正確に表現することは難しく、それでいて研究に関わる上で非常に重要なことです。これを自分で試行錯誤して行ったことで、意識するポイントの理解に繋がりました。
今回のインターンシップを通して、研究者の方々が積み重ねてきた研究成果を一般社会に向けて発信することの重要性を改めて感じました。多くの人の目に触れることによって生まれる新たな出会いは、誰かの考え方や描く未来に影響を与えたり、研究の発展に繋がったり、様々な可能性を秘めていると思います。私はこのインターンシップの経験から、今後は学術的成果を社会実装に繋げるような取り組みをしたいと強く感じるようになりました。研究者の方へのリスペクトを忘れず、その成果を活かしていく立場から関わっていきたい思います。
研究広報インターンを担当してくださった川本真奈美さん、菊池優さん、そして広報課の方々には大変感謝いたします。ありがとうございました。

【北海道大学 広報課 広報特派員(インターンシップ)
北海道大学獣医学部5年(当時) 馬杉実里】

卒業後は、コンサルティング系の会社に就職予定という馬杉さん。今後は社会人として、「研究広報インターンシップでの経験を生かしたい」と、語る(撮影:広報課 広報・渉外担当 斎藤麻衣)卒業後は、コンサルティング系の会社に就職予定という馬杉さん。今後は社会人として、「研究広報インターンシップでの経験を生かしたい」と、語る(撮影:広報課 広報・渉外担当 齋藤麻衣)